2009/11/29 (日)

キュベット : 200911 ポスドク問題の解決:前編 産業構造に応じた博士課程定員の調整

 

 博士号取得者やポスドクの多くは定職に就くことがむずかしい.いわゆる”ポスドク問題”とよばれるこの問題は,”大学院重点化”や”ポスドク1万人計画”といった政策の失敗に起因する.これはもはや学生個人や民間レベルでどうにかできるものではなく,政府主導による抜本的な改革が求められている.

 最近,国は100人程度のポスドクに持参金をもたせて企業に派遣するという事業をはじめた (科学技術振興機構) .また,6月6日の報道各社のニュースによると,文部科学大臣が全国の国立大学に博士課程の定員の削減を求めたという.政府ややっと重い腰を動かしてこの問題に取り組みはじめたのだろうか.しかしながら,博士号取得者はすでに数万人の規模で膨れあがっており,この程度の政策では焼け石に水といえる.

 生化学若い研究者の会キュベット委員会では,学校基本調査 (文部科学省) や工業統計 (経済産業省) などを利用してポスドク問題について考察してきた.その結果,ポスドク問題の解決には,産業構造に応じた博士課程の定員の調整 (数の調整) と,理工系教育の見直し (質の調整) が必要なのではないか,という2つの考えにいたった.本稿では前者について議論し,後者については次号で議論する.

 

 われわれは,まず,学校基本調査を利用して博士課程の学科系統を”電気通信・情報系”"機械系”"化学・材料系”"バイオ系”の4つに区分し,それぞれの博士課程に属する学生数を集計した.その結果,単年度の博士課程に在籍する約15000人のうち,電気通信・情報系博士は約1000人,機械系博士は約300人,化学・材料系博士は約500人,バイオ系博士は約8000人であった.残念ながら,学校基本調査では”分子生物学”などのバイオ系新興学科系統の多くが”その他”に分類されてしまい,正確な統計情報は得られない.これを勘案すると,実際には,バイオ系博士は8000人を優にこえていると思われる.

 つぎに,博士号取得者の”受け皿”の状況を探ってみた.博士号取得者の就職先として有力なのは,一部上場企業の研究開発職である.これらを”電気・通信産業”"機械産業”"化学・材料産業”"食料品・医薬品産業”の4つに分け,それぞれの博士号取得者の新卒採用数を集計した.その結果,電気・通信産業では約100人,機械産業では約50人,化学・材料産業では約200人,食品・医薬品産業では約100人であった (就職四季報2009,東京経済新報社) .

 では,バイオ系博士のうち,いったい何人が就職できるのだろうか.ポスドクへの就職人数を約2000人 (科学技術政策研究所の2006年度調査によるとバイオ系ポスドクは約6000人,平均任期を3年として概算) ,一部上場企業 (食品・医薬品産業) の新卒採用を約100人とすると,就職できるバイオ系博士は2000人強となる.つまり,”就職先がない”バイオ系博士は6000人程度と見積もられる.実際には,ベンチャーなどの未上場企業や文部科学省の統計には表われない”隠れポスドク” (パートタイムやテクニカルスタッフなど) ,医師,大学教員などに就職する者も存在するので,全員が路頭に迷うわけではない.しかし,化学・材料系博士について同様の試算をすると,”就職先がない”人数はゼロであった.このことから,少なくとも化学・材料系博士に比較すると,バイオ系博士の就職状況はきびしいものであることが示唆される.

 バイオ系博士は明らかに供給過剰であり,早急に削減する必要があると思われる.そもそも,バイオ系製造業の従業員数は全業界の15%程度でしかなく,博士号取得者が過剰となることは事前に予期できたはずだ.これからの博士課程の運営には,博士号取得者の就職先に配慮して分野ごとに個別の対応を行なう”産業構造に応じた博士課程定員の調整”が重要であると考えられる.

 次号では,さらに,”理工系教育の見直し”について論じる.

 

生化学若い研究者の会キュベット委員会

E-mail:pne-cuvette@seikawakate.org










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