2008/3/28 (金)

キュベット : 200803 大学院が無料化される?

 

 さきごろ,東京大学の大学院博士課程で新しい奨学金制度が準備されており,一部の学生の授業料が実質”無料”になるという報道(2007年9月29日付 日経新聞)があった.これは前例のない大規模な授業料免除である.東京大学では学部学生の授業料免除枠が拡大されるとの報道(2007年8月30日付 日経新聞)もされており,授業料減額についてさまざまな検討が行われているようだ.とはいえ,報道によれば,この新しい奨学金を受けるにはいくつかの条件(日本学術振興会の奨学金を受けていない,など)があり,無条件ですべての大学院生がその恩恵を受けることはできない.また,新しい奨学金制度についての報道が事実であるば,東京大学の英断を評価したい一方で,どうしていままでそれができなかったのか,遅きに失した感もいなめず,さらに,すべての大学院生を公平に援助せず,なぜ条件を設けるのかについても疑問符をつけたい.戦後,国立大学の授業料は増加の一途をたどってきたが,キュベット委員会ではたびたびこの問題をとりあげ,国と大学の姿勢を批判してきた.本稿では,主要大学の財務状況を概観し,全国の大学に授業料減額のより一層の拡大を促したいと思う.

 今回の報道によれば,10おクエンの経費削減によって1700人分の授業料を工面する,とある.しかし,NPOサイコムジャパンの調査(理工系&バイオ系 失敗しない大学院進学ガイド,pp.244,日本評論社,2006)によれば,東京大学の大学院生1人あたりの外部研究費(科学研究費補助金など)は543万円で,2位の大阪大学(303万円),3位の京都大学(296万円)を大きく引き離して全国トップに位置している.これだけ予算規模の大きい大学が,大学院生から毎年約50万円の授業料を徴収する必要があるのだろうか.もちろん,現状では外部研究費や運営交付金は柔軟には使用できず,また,授業料減額は大学経営にとって危険な冒険であるとの認識(佐々木 毅 東京大学総長(当時)談話,2004年1月25日,http://www.u-tokyo.ac.jp/gen03/b01_06_01_j.html)も理解できる.しかし,東京大学が優秀な学生を集めようと思うなら,多額の研究費を集めていながら,なぜ,いままで授業料を減額できるシステムをつくれなかったのか.わが国を代表する大学として政策の提言をするなど,政府の決定に”遺憾に思う”とコメントするだけで従うのではなく,もっと早く行動を起こせたはずである.世界一の大学を標榜するのであれば,今後も率先してわが国の大学改革を断行してほしい.

 大阪大学,京都大学といったほかの有力国立大学ではこのような動きはないのだろうか.携帯電話事業大手のDoCoMoとKDDIのように,業界のトップが切磋琢磨するからこそサービスは向上する.優秀な学生を集めて世界最高レベルの大学をめざすのであれば,静観できる問題ではないはずだ.また,私立大学にもチャンスはある.一部の私立大学では大学院生の授業料を学部生のものより減額する場合があるが,ブランド力があって学部生が多い大学であれば,学部生の授業料を若干上げることで大学院生の授業料を無料化することも無理ではない.たとえば,早稲田大学なら,学部生の授業料を2割程度アップすれば大学院生の授業料を無料化できる(早稲田大学の学生数は,学部生45,757人,大学院生8,471人(専門職課程を含む)なので,学部生と大学生と大学院生の授業を同額と仮定するなら,学部生の授業料を約120%とすれば総額で大学院生分の授業料をカバーできる.数字でみる早稲田,http://www.waseda.jp/jp/global/guide/databook/index.htmlより),米国では,学部には富裕層の子弟を集め,大学院では優秀な頭脳を集める,という経営戦略はめずらしくない.

 このように,研究費の潤沢な大学院ならば大学院生の授業料無料化は決して不可能ではないと思われる.また,私立大学にも検討する余地はあるはずだ.大学院生の授業料無料化は優秀な学生を呼び込む”目玉商品”となるだろう.一方で,大学格差がさらに顕在化することも予想され,学生へのサービスを真剣に議論する時代がきたといえる.つぎはどの大学から続報がでるだろうか.

 付記:本稿執筆後,東京工業大学から博士後期課程への経済支援が正式に発表された.(http://www.titech.ac.jp/news/j/news071221-j.html).

 

片木りゅうじ(キュベット委員会)

蛋白質 核酸 酵素 Vol.53 No.3(2008)










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