2008/5/28 (水)

キュベット : 200805 博士課程への経済援助だけで終わるな!

 東京工業大学、室蘭工業大学、東京農工大学、そして、東京大学。これらの大学の共通項がわかるだろうか。この4つの大学は、最近、博士課程の学生に対して、過去に類のない大規模な経済的支援を発表したのである。博士課程への入学者数の低下(学校基本調査報告書より)という背景のもと、優秀な学生を確保する手段として、同様の動きはこれからも全国の大学に急速に広まる可能性がある。

 筆者はこれから博士課程に進学する予定であり、このような経済的支援は率直な感想としてありがたい。同級生がつぎつぎと社会に出ていくなか、親に学費を払ってもらうという負い目が軽減されるからだ。しかし、大学院教育を取り巻く問題は依然として山積みであるという事実と、それをふまえた今回の支援のあるべき位置づけについて、考えるべきではないだろうか。

 大学院教育の問題点として、博士号取得者の就職問題がある。国の政策である大学院重点化とポスドク1万人計画によって増加した博士号取得者のうち、大学教員になれる者は限られる。大多数は民間企業に道を求めるが、企業の多くは博士号取得者の採用に消極的だ。その結果、定職に就けないまま年齢を重ねる博士号取得者が増加しつづけている。この問題に対処するため大学は、博士課程で養われる能力と企業が求める能力とを乖離させないための取り組みと、就職支援をするべきだと考える。

 博士課程においてなにが問題点なのだろうか。日本経団連がまとめた報告書にはつぎのような記述がある。”…わが国の博士課程は、「優秀な人材が博士課程に進学しない」→「博士人材の能力、付加価値が不明確であり、ばらつきがある」→「企業が博士人材の採用に消極的」という一種の”悪循環”に陥ってしまっている…”[大学院博士課程の現状と課題より]。

 この要因として、同報告書は、(1)学生をめぐる問題、(2)大学院教育をめぐる問題、(3)企業の採用をめぐる問題、(4)経済的支援の不足、をあげている。今回の経済的支援は(4)に対応するが、(1)~(3)の問題についてはいまだ手つかずといえる。結局のところ、これらの問題は、企業が求める人物像や業務内容とのミスマッチ(専門性は高いが、ほかの分野の知識やコミュニケーション能力が不足しているなど)ということであり、今後は、経済的支援以外にも、学術研究だけでなく企業活動にも通用する能力を高める体系的な教育が求められるだろう。たとえば、他分野の研究者と研究交流をうながして高度なコミュニケーション力を養う、あるいは、新規の研究計画を提出することを義務付けて課題設定能力を養う、といった教育が考えられる。また、修士課程の学生に対する就職支援と同等の場を博士課程の学生にも特化したかたちであたえ、企業と学生の双方の意識改革も必要であると考えられる。

 もし、大学が経済援助をしただけで取り組みをおえてしまえば、博士課程への進学希望者の減少、という問題の枝葉だけをみた対処療法にしかならない。学生に配慮したつもりが、実際は就職先のない博士号取得者を増やしただけという結果になりかねない。今回の経済的支援は、博士課程における教育の充実と就職支援の取り組みをくわえてはじめて意味があるといえる。もちろん、経済絵的支援を受ける側の学生も喜んでいる場合ではない。将来、活躍できる場が大学であろうと企業であろうと、どこでも通用する能力を戦略的に身につけるつもりで博士課程に進学するべきである。

 

小林晃大(キュベット委員会)










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