2008/7/28 (月)

キュベット : 200807 ポスドクから民間企業への転職の例

 

 世界中で多くの大学院生が,大学教授をひとつの頂点とする研究者をめざして研究に励んでいる.しかし,博士号取得後にポスドクや助教になったとしても,数年間は不安定な任期制雇用がつづき,さらに,そのなかですぐれた業績をあげて教授にまでなれる者はわずかしかいない.

 では,ポスドクというプロの研究者になったのち研究がうまくいかなかったとき,アカデミック以外の職種(民間企業・公務員など)へ転職することはできるのだろうか?ポスドクを数年つづけると年齢はすでに30代になっており,”研究に失敗した人”というネガティブなイメージがついているのではないか.そんな人を社会はどう受け入れるのか.今回は,神経科学分野のポスドクから教育関係の企業へ転職したAさん(年齢は,30代半ば)に,アカデミックから民間企業へ就職するにいたった経緯を聞いた.

 

Qなぜ,博士課程へ進学したのですか?

A学部生のときは就職活動が面倒だったからです.就職活動セミナーには1回も行っていません.修士課程の配属先もあみだくじで決めました.その結果,修士課程では石油化学を専攻しましたが,脳に興味をもったので,博士課程では神経科学をテーマとしている研究室に進学しました.修士課程でも博士課程でも,研究職以外への就職活動はしませんでした.

 

Qなぜ,民間企業へ就職することになったのですか?

A博士号取得後,そのまま研究室のポスドクとなりました.しかし,研究でよい結果を出せず,自分の興味あることにも取り組めませんでした.そこで,”脳研究は自分以外の誰かがやればいい,それよりも研究で得た脳科学の知識を社会に還元したい”と思うようになり,教育関係の企業へ就職しようと決めました.

 

Q現在の企業に就職するにいたった経緯を教えてください

A大学が主催する経済関係のセミナーに参加しました.そのセミナーの講師に現在の企業を紹介していただき,面接を経て採用となりました.就職活動をしていた期間は,3ヶ月ほどです.採用の決定打は,やはり”コネ”でした.就職活動にとって,人脈は非常に重要です.企業に幅広い人脈をもつ人から信頼を得て,その人に紹介してもらうのが確実だと思います.

 

Q民間企業への就職を考えているポスドクにアドバイスをお願いします

Aポスドクが民間企業へ就職するというのは,”研究に失敗して仕方なく企業へ”というネガティブなイメージがあると思いますが,”活躍できる場所を変えるだけ”と,考えを変えてみてはどうでしょうか.研究が駄目だからといって,すべてが駄目というわけではありません.どんどん人脈をつくり,就職先を紹介してもらいましょう.大切なのは,”自分は○○の研究をしてきた”というような,研究に固執したプライドは捨てることです.企業では,たとえ社員がひとり抜けたとしても仕事はまわります.代わりはいくらでもいるのです.自分の立ち位置を変えられ,柔軟に動ける人が求められています.また,企業によってその風土はかなり異なります.自分に合うかどうか,よく確かめたほうがいいでしょう.

 

Q博士課程の大学院生へのアドバイスもお願いします

A目先の業績を出すこと(研究テーマ)に一生懸命になってください.失敗したときのことを考えてしまうとスケールの小さい研究になり,結局は失敗してしまうと思います.また,知りたいこと(研究したいこと)がある人だけ大学院に進学するべきです.研究で失敗したなら,そのとき考えればいいと思います.失敗することを考えて大学院に進学するべきではない.それなら就職したほうがいいでしょう.

 

Aさんは,典型的な”なんとなく進学してしまった”学生だった.博士号取得後も研究は波にのれのかった.しかし,人脈を使って転職をはたし,安定した収入源を得たという意味においては,キャリア構築がうまくいったという例といえるだろう.求人の少ないポスドクにとって,やはり,鍵は人脈である.転職を考えたら,まずは人脈をつくろう.ポスドクは学会だけでなく,日ごろからキャリア関係のセミナーにも参加するべきだ.

 

木村栄輝(キュベット委員会)










© 2015 生化学若い研究者の会 all rights reserved.