2008/8/28 (木)

キュベット : 200809 奨学金の“優れた業績による返還免除”制度の問題点

 

 日本育英会に代わって日本学生支援機構が誕生してから第一種奨学金の返還免除制度が変わり,”特に優れた業績による返還免除制度”がはじまった.これは,大学が日本学生支援機構に学科や専攻単位ごとに学生を業績で順位付けた資料を提出し,日本学生支援機構がそれをもとに上位の約30%を奨学金返還免除の対象(そのうち,全額免除を1/3)に選ぶ,という制度である.

 日本学生支援機構のホームページ(http://www.jasso.go.jp/)によると,この制度の対象は”大学院第一種奨学金採用者で,当該年度中に貸与終了する者”とあり,申請年度が限定されている.実際に日本学生支援機構に電話で確認してみたが,貸与が終了した年度以外は申請することはできないそうだ.このような申請年度の限定により,博士課程の在学期間が標準年限をこえてしまい奨学金の貸与が在学中に終了する学生や,日本学術振興会特別研究員DC2への採用にともない博士課程の在学期間中に奨学金を辞退する学生(http://jsps.go.jp/j-pd/pd_boshu_f.htm)が奨学金の返還免除を望む場合,学位論文の作成・提出にいたる前の段階で申請することになる.

 ところで,博士号の取得はアカデミックの世界において一人前とみなされるため必須である.それゆえ,学位授与機構である大学においては,学位を取得した学生は学位を得ていない学生よりも優秀であることが自明とされる.したがって,標準年限を超過した学生やDC2は,学位論文の作成・提出にいたっていないとの理由から,どんなに秀でた業績をあげていても”優秀”であるとはみなされないだろう.つまり,”特に優れた業績による返還免除制度”の対象が貸与終了年度に限定されていることは,”標準年限で学位を取得し,DC2にならなかった学生”だけをその対象としていることに等しい.このような学生は,最終的にどんなにすばらしい学位論文を仕上げようとも,奨学金返還免除が考慮されることはないのである.これで,”業績の優秀”が公平に選別されているといえるのだろうか.

 しかし,この不公平さは,申請資格を貸与終了年度ではなく在学終了年度に変更することで解決できるのではないだろうか.このように変更すれば,上記のような場合でも標準年限で学位を取得する学生とともに業績が公平に評価されるだろう.ただし,この場合,業績評価をあげるためにあえて留年を選択するという学生がでてくるかもしれない.実際,生命科学系の研究では,時間をかけてデータを集めたほうがワンランク上のジャーナルへの掲載を狙えるという場合もある.このようなことを防ぐためにも,大学は,どのジャーナルに論文が掲載されたかということだけで業績を判断せず,学生が研究にどのように取り組んできたのかをしっかりと見定め,学生の評価に不公平が生じないよう取り組む必要があるだろう.

 一方で,DC2採用にともなう奨学金の辞退に関しては,DC2には金銭的なサポートがあるのにどうして同じ土俵に上げる必要があるのか,という批判があるかもしれない.しかし,この制度は”業績の優秀”という基準で奨学金返還免除者を決めている.DC2として意外にもCOEリサーチアシスタントなど収入を得る機会はあるのだから,収入の大小ではなく,業績の優秀さを公平に評価するべきではないだろうか.DC2の内定がでても,これを辞退してもう1年がんばれば奨学金が返還免除になるかもしれない,などと迷わなくてはいけない現状は,健全とは言いがたいように思われる.

 奨学金貸与終了者は返還をはじめなければならないが,在学中は返還期限が猶予されている.現状の手続きのままでも日本学生支援機構は奨学金貸与終了者の在学状況を把握しており,よって,返還免除申請の対象年度を変更しても事務手続き上の負担はほとんどかわらないはずである.日本学生支援機構には,以上をぜひとも検討願いたい.

 

藤原慶(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

蛋白質 核酸 酵素 Vol.53 No.11(2008)

 



キュベット : 200808 いまどきの若手研究者のネットワークづくり 夏の学校のコミュニケーション

蛋白質 核酸 酵素 Vol.53 No.10 (2008) P.1313

 

研究に参加したての大学院生が研究の進め方や進路を考えるうえで、指導教員や先輩との交流はもちろん、それ以外に、同世代の大学院生との交流も大切だ。研究室の外でのネットワークづくりのきっかけとして、”夏の学校”という若手研究者の合宿がある。生化学若い研究者の会が主催する”生命科学夏の学校”をはじめ、現在は40種類以上が知られている。これらは大学院生により運営され、研究者を招いた講義や大学院生の研究発表などをつうじて分野や所属をこえた交流を深めている。参加経験のある読書も多いだろう。

 近年、筆者は、”生命科学夏の学校”(以下生命科学)と”物性若手の夏の学校”(以下、物性)に運営スタッフとして携わってきた。今回は、2007年11月に開催された「サイエンスアゴラ2007」での活動報告をもとに、2つの夏の学校を比較しつつ紹介したい。

 

 生命科学と物性の開催場所・日程は対照的だ。生命科学は都市部のセミナーハウスなどに2泊、物性は地方の温泉ホテルなどに4泊の日程で開催される。生命科学は交通費と移動時間の面でメリットのある大都市近郊で開催し、公共施設の利用や日程の短縮など、参加者の負担削減に苦心している。短い日程は、動物や試料の管理のため長時間は研究室を空けられないというバイオ系に特有の事情もあるようだ。一方、物性はあえて交通費のかかる遠隔地で開催し、外界から隔離された環境での密な交流を図っている。温泉地での開催は招聘講師にも好評で、温泉は開催地選定の重要な条件となった。

 ともに参加者の大部分は大学院生だが、その学年分布は異なる。生命科学では半数近くいる博士課程の大学院生が、物性では2割にも満たない。ただし、博士課程の参加者の多くがリピーターである点は共通だ。学部生の参加が多いのも生命科学の特徴で、参加経験のある研究室の先輩などからの口コミが重要な役割を果たしている。男性と女性の比率は分野の状況を反映してか、生命科学で2:1、物性で9:1であった。

 時間割には共通点が多い。招聘講師による講義のほか、ポスターセッションや小グループでの議論など、参加者どうしが情報交換する企画がみられる。これらは、夏の学校の基本要素として50年ほどの長い歴史のなかで洗練されてきた。誰を招聘してどのような企画を行うかなど、具体的な運営のすべてを各年度で独立して行う点も共通している。大学院生どうしのネットワークをつなぐ場を大学院生自身がつくり上げようとする目的意識が両方で共有されている。

 夏の学校の問題点に、人的・金銭的な資金面での持続性がある。1年ごとに運営スタッフが更新されるためノウハウの蓄積や継承が難しい。何名かが翌年もスタッフとして残ったり、議事録や出版物をきちんとアーカイブしたりする必要がある。また、異なった夏の学校の運営スタッフが交流しノウハウを共有できるしくみがあれば重宝しそうだ。実際、生命科学と物性では比較を通じて互いに学ぶところが多かった。金銭面では、獲得可能な資金に限りがあることはもちろん、年度ごとの獲得状況の変化が開催地選定や参加者への旅費補助を不安定にしている。研究機関からの補助金、賛助企業からの協賛金などの資金ごとの特性にあわせた使用が、安定性の確保にある程度は有効のようだ。

 

 夏の学校は、われわれの体の細胞が日々更新されるように、年度ごとに刷新をくり返しながらきわどいバランスで続いてきた。この大学院生自身が企画・運営・参加する稀有なイベントが今後も続くためには、なにが必要だろうか?夏の学校での出会いからはじまった共同研究が実を結び、論文の謝辞に夏の学校の名が記されることを期待しながら、これからの進展に注目したい。

 

嶋田義皓 (日本科学未来館)

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