2009/2/28 (土)

キュベット : 200902 バイオ系の博士課程大学院生の就職活動

 近年、バイオ系博士課程を修了した大学院生の民間企業の研究職への就職はたいへん厳しい状況にある。医・歯・獣医系を除いたバイオ系博士課程修了者は、毎年、約2200人も誕生しており1)、そのうち約4割が民間の企業や法人への就職を希望している2)。しかし、2009年博士課程修了予定(一部、2008年修了を含む)の大学院生のうち、医薬品、食品、化粧品などの分野の上場企業から内定を得ているのは155名でしかない3)。つまり、新卒のバイオ系博士課程修了者が大手民間企業の研究職に就職できる割合は2割にも満たないのである。さらに、実際には、選考において企業と教授とのコネクションが有利になる場合もあり、そのようなコネクションがない場合にはより厳しい競争をくぐり抜けなければならない。大手民間企業の研究職に就けなかった場合は未上場企業(ベンチャー企業や外資系など)をめざすことになるが、これらの枠も非常に少なく、バイオ系博士課程の大学院生にはきびしい現実が待っている。

 

 企業が実際に採用したいのはどのような人物なのだろうか?筆者が複数の企業の説明会で聞いたところによると、企業が求めるのは”即戦力”だという。ただし、それは必ずしも”専門性”だけを求めているのではない。たとえば、製薬企業の研究開発においては、薬学部の薬理学系の研究室の出身者なら即戦力といえるかもしれない。しかし、他分野の人でも製薬企業に就職する例はたくさんある。また、複数の組織が行っている企業向けのアンケート調査では、企業が博士課程修了者にもとめる資質として、コミュニケーション能力、マーケティング能力、マネジメント能力、が上位にあがっており、必ずしも専門性をもとめていないことがわかる4-6)

 

 では、即戦力といえる博士課程修了者はどのような人物なのだろうか?それは、大学と企業との違いを良く理解し、企業でうまく力を発揮できるような人のことである。企業は営利活動であり、大学とは違う規律や制約が存在し、チームプレーが強く求められる。これらに順応して力を発揮できなければ即戦力とはいえない。そのためには、企業のニーズにあった新しい発想を生み出すマーケティング能力や、異なる環境に適応できる柔軟性、コミュニケーション能力などが必要なのである。

 

 実は、博士課程修了者は研究を進める過程で、すでにこれらの能力を磨いているはずだ。自らテーマを探し、自ら研究をマネジメントするからだ。また、必要に応じて協同研究を企画し、さらに、成果をだすことを求められる。これをビジネスシーンに置き換えると、プロジェクトを一任された若手の幹部候補のようなものであり、新卒の新入社員には決して任されないような非常に高度な仕事を含んでいる。このような経験をとおして、博士課程修了者は企業が求める能力をすでに鍛えているはずなのである。

 

 しかしながら、企業がもとめるレベルでこれらの能力を兼ね備えた魅力的な博士課程修了者は、非常に少ないのも現実である。今後の博士課程修了者数と大学・企業などの求人数の比率から、バイオ系博士課程修了者の大多数が安定した就職先を見つけられない。いわゆる、高学歴ワーキングプアになってしまう可能性もある。このような現実を見据え、自らのキャリアをどのように形成していくのかが、今後、バイオ系博士課程の大学院生に問われるところである。

 

【参考文献】

1)    文部科学省 学校基本調査報告書(平成20年度)

2)    科学技術政策研究所 これからの人材育成と研究の活性化のためのアンケート調査結果

3)    2010年度版 就職四季報

4)    マイコミ採用サポネット 2009年卒者人材ニーズ調査(理工系)結果報告

5)    早稲田大学 研究開発職における博士学位取得者の採用とキャリアパスに関する調査

6)    文部科学省 民間企業の研究活動に関する調査報告(平成18年度)

 

矢口邦雄(東京大学大学院農学生命科学研究科)










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