2009/3/28 (土)

キュベット : 200903 修士課程で就職するか?それとも、博士課程に進学するか?

 

 生化学若い研究者の会キュベット委員会は、昨年11月23日東京国際交流館で開催された”サイエンスアゴラ2008″において、シンポジウム”院生必見!理工系・バイオ系の研究キャリアガイド”を開催した。このシンポジウムは、修士課程の大学院生に自らの進路を考えてもらうことを狙ったもので、博士課程修了者の就職の可能性について統計的な分析、1970年代のオーバードクター問題から現代のポスドク問題への変遷、政策やキャリアサポートの問題点、などが議論された。また、元バイオ系のポスドクによる企業への転進の体験談についての講演も行われた。

 文部科学省の学校基本調査によれば、バイオ系の博士課程修了者は年間2000人を超えている(医学・歯学・獣医学を含めると、約6000人)。しかし、就職四季報(東洋経済新報社)によると、ここ数年、上場企業における新卒のバイオ系博士課程修了者の内定数は100~150人でしかない(主として、医薬・食品・化粧品)。実際には、これらの枠には、年間350人程度いる薬学系の博士課程修了者や、企業を志望する医学・歯学・獣医学系の修了者が有利であることが考えられるので、そのほかの分野のバイオ系博士課程修了者の大多数は、残念ながら、確実に就職にあぶれる計算となる。

 なぜ、博士課程修了者がこんなにも過剰となってしまったのだろうか。榎木英介氏(サイコムジャパン)は、”1970年代のオーバードクター問題がまさに再現されており、現場(大学関係者)も政府(文部科学省)も、過去の教訓をまったく活かしてこなかった”と指摘した。また、橋本昌隆氏(フューチャーラボラトリ)は、中央省庁でのヒヤリングをもとに、”文部科学省が既得権(財務省からの予算配分)を維持するため、少子化であっても学生数を減らすわけにはいかないという理由から大学院の定員が異常に増やされてきた”という背景を述べていた。

 政策的な問題をどのように決着させるのか、または、させるべきなのかについては、ここでは議論していない。大学院生や任期制のポスドクには、目前に迫った就職活動のほうが重大だからだ。では、彼らは就職についてどのような印象をもっているのだろうか。本シンポジウムで行ったアンケートの結果(バイオ系の学部生からポスドクまで、回答者19名のデータ)の速報を紹介する。

 将来、アカデミックポストに残れる割合を聞いたところ、ほとんどが20%程度と答えている。厳しさを実感している人は多いようだ。対して、企業への就職活動をしている割合(印象も含む)を聞くと約40%で、ポスドクとしてアカデミックを目指す割合のほうが多いようである。このことから、ある程度の覚悟を決めてポスドクをつづけるという人も多いことがうかがえる。

 就職活動の成否についてはどうだろうか。企業への就職活動のうち、内定をとれる可能性を聞いたところ、約70%とかなり高かった。ただし、研究で学んだ専門を活かせる仕事に就ける可能性を聞くと30%程度しかなく、就職は可能ではあるが専門は活かせないと考える人が多いようだ。また、就職の際に教授などのコネがどのくらい重要かを聞いたところ、20%程度と答える人と80%と答える人の二つの集団に回答がわかれた。このことから、日常的に”コネ採用”の現場を目の当たりにする人と、まったくそういう現場を見たことがない人に分かれていることが推察される。

 就職活動に成功する秘訣はあるのか。就職に成功する博士課程修了者がもつ能力を聞いたところ、第1位にコミュニケーション能力をあげる人が多かった。そして、一般的に博士課程修了者に足りない能力を聞いた場合も、同様にコミュニケーション能力であった。このことから、コミュニケーション能力は就職に必要であることは自覚するものの、博士課程修了者が苦手意識をもっている能力でもあるようだ。

 学生の多くは、バイオ系博士の進路が厳しいことを知っている。しかし、そのきびしさをどれほど実感できているのだろうか。自ら弱点を自覚できる博士課程の大学院生なら、それを克服できる場所を自ら探すこともできるはずだ。また、修士課程の学生には、これらの状況を十分に考慮して進路を決定してほしい。

 

片木りゅうじ(キュベット委員会)・

矢口邦雄(東京大学大学院農学生命科学研究科)










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