2009/9/29 (火)

キュベット : 200909 学振をとおして研究をかえりみる:前編

 

 研究室に所属する人ならば”ガクシン” (学振) という言葉を耳にしたことがあるだろう.これは日本学術振興会特別研究員の通称で,博士課程1年次から3年間採用される”DC1″,博士課程2年次以降に2年間採用される”DC2″,そして,博士課程修了者が3年間採用される”PD”がある (ただし,医学,歯学,獣医学系を履修する4年制博士課程在学者の場合は,DC1が博士課程2年次,DC2は博士課程3年次以降) .このうち,DC1やDC2は大学院生にとって大きな関心事である.なぜなら,特別研究員に採用されれば年間240万円の研究奨励金と年間最大150万円の研究費が支給されるからだ.しかし,この制度の存在は認識していても,具体的にどのような申請を行ない,その際にどのような点で苦労するのかについては,実際に申請をしてみた人にしかわからない.そこで,2009年度の募集においてDC2への申請を行ない,現在,審査中である2人の博士課程1年次の大学院生,SさんとTさんにインタビューし,その体験談を語ってもらった.前編となる今月号では”申請することの意義”を,後編の次号では”申請時に考慮する点”についてまとめる.

 

【Q】学振を申請しようと思ったきっかけは?

【S】採用された場合,生活費はもちろんですが,自分の裁量で研究費 (所属する研究室の研究費では購入できない文献やパソコン,出張経費など) を使えるということが大きかったです.金銭面でのサポートがあれば精神面にもよい影響があり,研究に集中できるのではないかと感じました.また,自分の研究を振り返るきっかけとなり,挑戦して損はないと思いました.

【T】自分の力 (発想力,調査力や文章力) を試すためです.学振は同じ大学院生どうしの競い合いとなるため,自分の研究者としての能力を客観的に知る指標となります.たとえ不合格であっても,自分に何が足りないのかを知るきっかけとなりますし,もし採用されれば自信になると考えたからです.

 

【Q】学振への申請を経験して研究への取り組み方などに変化はありましたか?

【T】自分の研究の意味をより深く,具体的に考えるようになりました.自分の研究をアピールするためには,研究の背景,目的,そして,独創性を明確にしなければなりません.それらは研究を行なううえでの基本であり,学振の申請項目そのものです.申請後はつねにそれらを意識して研究するようになりました.

【T】私も,今回の申請が研究の位置づけや意義の明確化について,いままで以上に深く考える場となり,今後やるべきことがはっきりしてモチベーションがあがりました.

 

【Q】研究の意義を深く意識するようになったとのことですが,研究の意義を明確にするうえで具体的にどのような努力をしていますか?

【S】同じ分野の論文を深く読むことで論文の論理性を検討し,その意義を明確に把握できるよう努力しています.得られた情報をもとに,自分の研究がほかとは異なる意義をもつよう研究目的を絞り込んだり,軌道修正したりしています.

 

【Q】今回の経験をとおして,研究以外の面で考えさせられたことはありましたか?

【S】物事を他人に伝えることのむずかしさと重要性を認識しました.これには”物事の本質を見抜く視点”と”表現力” (要点を簡潔に書く,表現に強弱をつける) の両方が必要です.今回の経験によって身についたこれらの力は,研究以外の場面でも求められるものだと思います.

【T】申請書を書くことによって,いくら自分がおもしろいと感じるアイデアでも,他人に伝わらなければ何もはじまらないということを実感しました.

 

次号では,実際の申請書類において,どのように自分の研究を伝えればよいのか,その方法とむずかしさについて,より具体的に聞いてみたい.

 

清水聡一郎 (東京大学大学院理学系研究科)

E-mail:pne-cuvette@seikawakate.org










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