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遺伝子発現に関連した二つの構造生物学的問題
大阪大学 蛋白質研究所 森川耿右
遺伝子発現機構の解明は生命の根幹に関わる極めて重要な課題である。この問題を化学反応の巨大な集積として記述することは分子生物学の大きな目標となっている。しかし、細胞核内現象はこれまで想定されたよりずっと動的で複雑であり、従来の構造生物学的概念や手法の前に大きな壁がたちはだかっているように思われる。
今回のセミナーでは、我々は次の二つの問題について言及したい。
1. 転写と代謝のカップリング機構の解明に向けて:核内受容体PPARgの活性化機構
核内受容体PPARgは糖代謝、及び脂質代謝に関わっており、生体の恒常性維持において重要な役割を担っている。これまでに、COX (cyclooxygenase)及び LOX (lipooxygenase)依存的につくられる脂肪酸代謝産物が内在性リガンドとして報告されている。しかしながら、一つの内在性リガンドのみに応答するステロイド受容体とは異なり、PPARgがどのようにして多様な内在性リガンドに対応しているかは不明である。我々は、内在性リガンドの一つである15d-PGJ2 (15-deoxy-D12,14-prostaglandin J2) のPPARg活性化は、受容体リガンド結合ポケット内のシステインとリガンドとの共有結合形成が必須であることを明らかにした。最近、このリガンドを含めて同様な活性化機構を示す脂肪酸代謝産物とPPARgとの相互作用をX線解析と生化学的手法を併用して原子レベルで解明した。今回のセミナーでは、共有結合という不可逆な化学反応を介した核内受容体の活性化機構が持つ意義について議論したい。
2.蛋白質中のIntrinsically Disorder (ID; 天然変性) 領域の意義: クロマチンリモデリング蛋白質FACTの構造と機能 真核生物の転写制御因子やリモデリング因子には、intrinsically disorder (ID; 天然変性) 領域が非常に多く存在し、機能上重要な役割を果たす事が報告されている。リモデリング因子の一種であるFACTはSSRP1とSPT16の二つのサブユニットで構成されている。一方のサブユニットSPT16のC末端ID領域がヒストンH2A-H2B二量体と結合し、ヌクレオソーム中のDNAを鋳型としたmRNAの転写に必須の役割を果たす事が示唆されている。また、SSRP1サブユニットのHMGドメインを含むC末端ID領域はヌクレオソームDNAと結合すると考えられている。しかし、ID領域を含む分子の構造や動作を既存の手法で明らかにすることは極めて困難である。これがクロマチンリモデリング分子機構の解明の大きな壁となっている。我々は、特にFACTのID 領域の動的構造に焦点をあて、クロマチンリモデリング機構を様々の手法を併用しながら研究している。今回のセミナーではこの結果について議論したい。
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