生化学若い研究者の会
2009/09/27 Sunday 00:03:18 JST
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prof_yamamoto.png行動の性差を生み出す脳と遺伝子の機構

山元 大輔 先生
(東北大学大学院生命科学研究科)

 

 

● 要旨

研究の発端となったのは、雄が同性愛行動を示す突然変異体、satoriの発見である。satoriで突然変異を起こしていたのはBTB-Zn fingerタイプの転写因子をコードするfruitlessという遺伝子であった。fruitless遺伝子が発現している脳細胞の中には、その形や数にはっきりとした性差がみられるものがあった。fruitless遺伝子が機能しなくなったsatori突然変異体の雄の脳を調べてみると、性差を示す脳細胞は完全に雌型に姿を変えていた。この研究から、fruitlessを発現している脳細胞の性差が、行動の性差を生み出すという可能性が浮かび上がって来た。
そこで私たちは、雌雄の脳内でfruitless遺伝子を発現している約2000個の細胞を1個から数十個ずつ、染色体組換えを利用した手法(MARCM)で標識し、細胞体の位置と神経突起の投射パターンに基づいて50のグループに分類、命名して脳細胞地図を作成した。続いて同様の手法により、雌の脳の少数の細胞グループだけをtransformerという遺伝子の変異体にして、雄に性転換した。transformer遺伝子は雌化作用を持つタンパク質を作る遺伝子で、この遺伝子が壊れた突然変異体は雄に性転換する。
こうして、一部の脳細胞だけが雄になった“性モザイク雌”を正常な雌と対面させたところ、雄として振る舞って雌に求愛するものが出現した。つまり、そうした“性モザイク雌”の行動のジェンダータイプは雄ということになる。
こうして個々の“性モザイク雌”について行動が「雄型」か「雌型」かを判別した後、脳を摘出して雄化が起こっている脳細胞を同定した。雄になった細胞だけがGFPを持つように仕組んであるので、雄化された細胞は直ちにわかる。その結果、行動が雄型だったものに共通して雄化が起こっていた脳細胞は唯一、P1と命名した雄特異的細胞グループだった。このことから、P1が雄化されれば、たとえ体や脳の他の部分が全て雌であったとしても、そのショウジョウバエは雄の性行動を示すと結論できる。


● 参考文献

1) Kimura, K-I. et al. (2005) Fruitless specifies sexually dimorphic neural circuitry in the Drosophila brain. Nature 438, 229-233.
2) Kimura, K-I. et al. (2008) Fruitless and Doublesex coordinate to generate male-specific neurons that can initiate courtship. Neuron 59, 759-769.
3) 山元大輔 (2006) 異性愛−同性愛を決定する神経機構の遺伝解析、蛋白質核酸酵素、51,446-451.

 

● 略歴

1978年     東京農工大学大学院農学研究科修士課程修了
1980年-1999年 (株)三菱化成生命科学研究所 研究員
1981年     理学博士(北海道大学)
1981年-1983年 米国ノースウエスタン大学医学部博士研究員
1994年-1999年 JST ERATO山元行動進化プロジェクト総括責任者
1999年-2003年 早稲田大学人間科学部教授
2003年-2005年 早稲田大学理工学術院教授
2005年      東北大学大学院生命科学研究科 教授 現在に至る

 

● 若手へのメッセージ

自分が魅せられる対象こそ、研究の対象とすべきです。本当に好きなもの、興味を引かれるものでないと、ものにならないと思う。とはいっても、満足いく成果を挙げるには、多様で質の高い技術スキル、言語スキルなどが求められる。それを身につけるには、一見、自分の興味とはほど遠く思える分野であっても、それをとことん極めるという柔軟性も大切だ。やがて自分の夢を追うことが許される日が来る。そのとき、若い日のさまざまな回り道があなたの武器になる。

 

● オーガナイザーからのコメント

行動を生み出すメカニズムとはどのようなものなのでしょうか。たとえば、動物では雄と雌で異なった行動をとることが数多く知られています。そもそもこの違いはどこからくるのでしょうか。
1953年にDNAの構造が明らかになったのを皮切りに、どのように親の形質が子に受け渡されるのか?という疑問について、多数の研究が成されてきました。最近の遺伝研究では、形態や体質などと同様に、体内時計や性行動、性格決定においても、遺伝的要因が重要な役割を果たしていることが分かりつつあり、行動を左右するような遺伝子の特定も進んでいます。
また、脳神経科学の分野からも神経系がどのように個体の行動をコントロールしているのか、そして心はどのように生み出されるのか、といった疑問に対して様々なアプローチが続けられています。
どのような遺伝子が機能して、脳にどのような違いが生まれ、行動の性差をもたらしているのでしょうか。
山元先生は、雄が同性愛行動を示すsatori突然変異体の発見を始めとして、ショウジョウバエを用いて、行動の性差をもたらす機構について取り組まれてきました。このワークショップでは、行動の性差をもたらすメカニズムについて、遺伝子と脳のレベルから講演していただきます。
 

 
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