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卵子に魅せられて
-雌雄生殖細胞の根源的差異とはなにか?-
河野 友宏 先生
(東京農業大学 応用生物科学部 教授)
● 要旨
私は農学分野で動物繁殖学を学び、卵子とクローン研究を介して意味さえ良く理解しないままゲノムインプリンティング(遺伝子刷り込み)の世界に迷い込み今日に至っています。20年前、ゲノムインプリンティングの認知度は一般的には可成り低いものでした。しかし、新しい研究領域を切り開いた1980年代のAzim Surani やDavor Solterらの核移植研究には不可思議な魅力を感じたことを覚えています。ここでは、生殖工学の立場から、ゲノムインプリンティングと個体発生の関係を紹介し、あらためて生殖細胞の魅力に迫りたいと思います。
<トピックス>
1.胚操作技術の発展と生命科学への貢献
1983年にセンダイウイルスを用いた核移植技術が開発されたことにより、哺乳類における再現性の高い核移植験が初めて可能になりました。卵細胞を破壊することなくドナー細胞核を導入するには、細胞融合が不可欠でした。核移植技術開発の変遷とその有用性を再確認したいと思います。
2.生殖細胞の人工生産
生殖細胞は実に不思議な細胞です。顕微鏡下の光り輝く生命力に溢れた卵子には、いつもうっとりです。さて、言うまでもなく、生殖細胞の特性は半数体であることと、受精して全能性をもつ胚になることです。幹細胞研究が大きく発展した昨今ですが、生殖細胞を再生することへの道は開かれていません。雌雄生殖細胞の差異とは何か再検証しながら、次世代生産のありかたを考えたいと思います。
3.クローンマウスと二母性マウスの比較から見えるもの
なぜ、哺乳動物では単為発生により個体が誕生しないのか?この命題はゲノムインプリンティング研究の原点です。雌ゲノムのみから誕生する二母性マウスおよび体細胞クローンマウスから、生殖細胞機能および個体発生におけるエピジェネティクスの意味を探ります。
● 参考文献
1) Kono, T., Obata, Y., Yoshimizu, T., Nakahara, T., Carroll, J. Epigenetic modifications during oocyte growth correlates with extended parthenogenetic development in the mouse. Nature genetics 13, 91-94, 1996.
2) Kono T, Obata Y, Wu Q, Niwa K, Ono Y, Yamamoto Y, Park ES, Seo JS, Ogawa H. Birth of parthenogenetic mice that can develop to adult. Nature 428, 860-863, 2004.
3) Kawahara M, Wu Q, Takahashi N, Morita S, Yamada K, Ito M, Ferguson-Smith AC, Kono T.High-frequency generation of viable mice from engineered bi-maternal embryos. Nat Biotechnol. 2007 Sep;25(9):1045-50.
● 略歴
昭和57年3月 農学博士取得(東京農業大学)
同年10月 東京農業大学総合研究所助手
平成4年10月 東京農業大学農学部助教授
平成5年10月 英国MRC実験発生学・奇形学研究所客員研究員
平成8年10月 東京農業大学農学部教授
平成13年4月 東京農業大学応用生物科学部教授
●若手へのメッセージ
研究はまるで絵を描くようです。真っ白なキャンバスに自由に筆をはこび新しい世界を創造して下さい。研究バブルな時代ですが、若い研究者の環境は厳しい側面を抱えたままです。皆さんが感性を磨き上げ夢を与えられる研究者になってくれることを期待しています。
● オーガナイザーからのコメント
通常、哺乳類は精子と卵子が受精することで全能性を得、個体へと発生していきます。雄からの精子、雌からの卵子が出会って初めて発生が始まり、精子と卵子、どちらが欠けても個体は発生しえない、というのが常識でした。しかし、二卵性マウス“かぐや”の誕生は世界を驚嘆させ、それまで誰もが想像の域でとどめていた夢物語を実現させたことで、発生分野の常識を覆し、非常に多大な影響を与えました。
“がくや”の発生に成功した背景には、『ゲノムインプリンティング(遺伝子刷り込み)』が大きく関わっています。数年の時を要し、河野先生は精子と卵子の遺伝子の差を突き止められました。その差はわずかでありながらも、この差が精子と卵子の違いを生んでいるのが現実であり、河野先生はこの仕組みの解明に精力的に取り組んでいらっしゃいます。
「なぜ哺乳類には雄と雌がいるのか。」
河野先生が追及するこの疑問は、生命科学の大きな謎の解明につながるとおっしゃいます。二卵性ができたなら精子だけで個体発生は望めないのか。精子と卵子が互いに与え合う情報、シグナル、影響とは一体何なのか。二卵性マウスの誕生がもたらした多分野への影響、生殖細胞に関する研究の昨今、そして将来に向けて。
河野先生の今までの生い立ちなども交えてご講演いただく予定です。
個体の原点となる生殖細胞に、虜となること間違いないでしょう。
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