宇宙環境を利用して生命のしくみを探る
− 植物の抗重力反応
保尊 隆享 先生
大阪市立大学大学院 理学研究科
● 要旨
私たち自身を含め、これまでに知られているすべての生物は、この地球に生まれ、地球環境の中で長い間進化してきた。したがって、生命の基本原理とメカニズムは地球環境に依存しており、地球の枠を超えた普遍性を持つかどうかは明らかでない。宇宙環境という視点から生命のしくみを見つめ直すことを目的とするのが宇宙生物科学である。地球環境を構成する要因の中で、重力はその大きさや向きが一定であるという特徴的な性質を持ち、重力生物学は宇宙生物科学の中で重要な地位を占めている。私たちは、重力に対する植物の反応について研究してきた。
植物の代表的な重力反応は重力屈性であり、これによって植物は生命活動のために効率のよい形態を築いている。私たちは、重力がない環境下では植物が自発的形態形成を行うことを見出した。自発的形態形成は、植物が内在する特性に基づいて行う形づくりであり、ふだん見る植物の姿は、この本来の形態が重力や他の要因によって修飾された結果であると言える。
私たちは、重力屈性と並んで、もう一つ、植物が強固な体を構築して重力に対抗する重力反応があることに気づいた。しかし、この反応の存在はそれまできちんと認識されておらず、正式な名称すらないのが実情であった。そこで、私たちは、これを「抗重力反応(gravity resistance)と名づけ、特性やメカニズムについて研究してきた。その結果、重力屈性の場合とは異なって、重力シグナルが個々の細胞の原形質膜上に存在するメカノレセプター(機械的刺激受容イオンチャンネル)によって受容されること、シグナルの変換・伝達に膜ステロール(ラフト)、プロトンポンプ、表層微小管等が関与すること、そして最終的な応答として細胞壁代謝と細胞壁環境の修飾による細胞壁強度の増加が誘導されること、が明らかになった。このような、植物の抗重力反応の特徴、それを研究するためのアプローチ、また宇宙実験の意義と現状について紹介する。
● 参考文献
1) Hoson, T. and Soga, K. (2003) New aspects of gravity responses in plant cells. Int. Rev. Cytol. 229: 209-244.
2) Hoson, T. et al. (2005) Signal perception, transduction, and response in gravity resistance. Another graviresponse in plants. Adv. Space Res. 36: 1196-1202.
3) 保尊隆享 (2007) 植物の抗重力反応.宇宙環境利用の展望.JAROS, p.59-77. PDF
● 略歴
1977年 東北大学理学部生物学科卒業
1980年 東北大学大学院理学研究科博士後期課程退学
同 大阪教育大学助手
1985年 大阪市立大学理学部助手
1993年 同 助教授
2000年 大阪市立大学大学院理学研究科教授
日本植物学会奨励賞(1992年)、日本宇宙生物科学会学会賞(2001年)
● 若手へのメッセージ
皆さんは、日々熱心に実験に励み、またその合間には論文を読んだり情報を集めたり、多忙に過ごしていることと思います。でも、時々、そんな毎日に疲れてしまったり、行き詰まりを感じるようなことはありませんか。そんな時には思い切って自分の研究から離れ、頭を空っぽにしてみましょう(書を捨て野に出よう)。情報が詰まって余裕のない頭からは、なかなか新しい発想は出てきません。夏の学校を楽しんでいるあなたは大丈夫!?
● オーガナイザーからのコメント
宇宙飛行士の若田光一さんが,つい先日,国際宇宙ステーションに長期滞在されていたことはみなさんの記憶に新しいかと思います.その若田さんが国際宇宙ステーションに取り付けた日本の実験棟「きぼう」についても耳にしたことがある人は多いはずです.しかし,その「きぼう」でいったい何がおこなわれているのか? なぜわざわざ宇宙で実験しているのか? みなさんは疑問を持ちませんでしたか?
これらの疑問は,きっとこの講演を聞いていただければ解消できるはずです.保尊先生はこれまでにスペースシャトルや国際宇宙ステーションで宇宙実験を実施されており,さらに今後「きぼう」での宇宙実験も予定されています.このワークショップでは,これらのご自身の研究と宇宙生物学の概要を中心に講演していただく予定です.
宇宙空間には空気もなければ水もありません.放射線もバンバン飛び交っています.生命にとってあまりに過酷な環境です.地球上で誕生した生命はそんな過酷な環境に,今敢えて挑もうとしています.その先にはいったい何があるのか.地球を飛び出して,はじめて見えてくる生命の魅力について語っていただきたいと思っています.
後援:宇宙ライフサイエンス若手の会
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