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天然変性蛋白質の構造と機能の最前線
菅瀬 謙治 先生
財団法人サントリー生物有機科学研究所 第1研究部 NMRグループ長・主席研究員
神戸大学大学院 工学研究科 生物機能工学 准教授
● 要旨
従来の構造生物学では、タンパク質の機能は立体構造を決定することによって解明されると考えられてきたが、近年、この考えに収まらない天然変性タンパク質(intrinsically disordered protein)と呼ばれる特異な存在が明らかにされ始めた。天然変性タンパク質は、遊離状態では全体または長い領域が変性状態にあるが、他のタンパク質や核酸と結合すると特定の立体構造に折り畳まれる。この現象を共役した折り畳みと結合(coupled folding and binding)という。溶液中で構造を持たずにフラフラしている蛋白質がどのようにしてターゲットを選択的に認識するのか、さらにはどのような過程を経て正しい立体構造に折り畳まれるのか、と言ったことは非常に興味深い。最終的な結合状態までにはいくつかの中間状態が予想されるが、平衡状態ではそれらの存在比が極端に低いため、共役した結合と折り畳みのメカニズムはほとんど何も解析されていない。
興味深いことに、網羅的な配列解析からヒトのタンパク質の約3割は、単体では天然変性状態にあることが示されている。転写因子に限ると、実に約7割が天然変性領域を含む。この数の多さからも、生命現象を理解する上で天然変性タンパク質の挙動の理解は避けて通れない重要な研究対象と言えよう。現実に欧米では天然変性タンパク質の研究が盛んに行われ始め、激戦の兆候を見せ始めている。小生も、スクリプス研究所(カリフォルニア州サンディエゴ)在籍時に、最新のNMR測定法である緩和分散法を駆使して、天然変性タンパク質(転写因子CREBのpKIDドメイン)の共役した折畳みと結合のメカニズムを世界で初めて解明した。
本講演では、緩和分散法による天然変性タンパク質の共役した折畳みと結合の動的構造解析および、得られた結果と機能の相関に関して発表する。
● 参考文献
1) Kenji Sugase, H. Jane Dyson, and Peter E. Wright “Mechanism of coupled folding and binding of an intrinsically disordered protein”, Nature 447, 1021-1025 (2007).
2) H. Jane Dyson, and Peter E. Wright “Intrinsically unstructured protein and their functions”, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 6, 197-208 (2005).
3) 菅瀬謙治 “天然変性状態と遭遇複合体”, 蛋白質核酸酵素 52, 945-951 (2007).
● 略歴
平成 9年3月 横浜国立大学大学院 工学研究科 博士課程前期 修了
平成 9年4月 財団法人サントリー生物有機科学研究所 入所
平成14年3月 横浜国立大学大学院 工学研究科 博士課程後期 修了
平成15年9月 The Scripps Research Institute, Peter E. Wright lab
平成19年9月 財団法人サントリー生物有機科学研究所 帰所(研究員)
平成20年9月 同NMRグループ長・主席研究員
平成21年4月 神戸大学大学院 工学研究科 生物機能工学 准教授 兼任
● 若手へのメッセージ
これまでの経験から、研究者として成長するためには、良き指導者の元で楽しみながらよく考えて研究を行うことが重要なことと感じています。そして、考えて必要と思われることがあれば、自ら進んでそれを実行する行動力も大切だと思います。自分を信じて色々なことに興味を持って研究を続けてもらいたいと思います。
● オーガナイザーからのコメント
分子、原子レベルでの生命現象のメカニズム解明は、それ自体が科学的に面白いだけでなく、様々な生体分子の医薬などへの応用が盛んになっている今日この頃、ますます必要とされるようになっています。
私自身も分子レベルでの蛋白質研究に携わっており、結晶構造解析や蛋白質の安定性に関する解析などを行っていますが、溶液状態と結晶状態の違いのために、うまく現象を説明できない事が有り、溶液中での蛋白質の挙動を記述する事の出来るNMRに興味を持つようになりました。
一方、近年蛋白質研究において、天然変性蛋白質という言葉を多く耳にするようになり、NMRのめざましい活躍を目の当たりにしています。
これからますます活躍するであろうNMRですが、なかなか勉強する機会が無いのが現状です。このワークショップを期に、天然変性蛋白質の構造と機能がどのように解明されてきたかを知り、NMRについて勉強しましょう!!(担当オーガナイザー:谷中冴子)
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