生化学若い研究者の会
2009/09/27 Sunday 00:03:25 JST
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prof_yamato.png再生医療本格化のための細胞シート工学
〜 生命を創って理解する。分析的理解から統合的理解へ 〜

大和 雅之 先生
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 教授
 
● 要旨
  再生医療は、幹細胞生物学と、培養系で組織構造を再構築する集学的学問領域である組織工学を両輪とする次世代医療である。本講演では我々が体系的に取り組んできた独自の組織工学である細胞シート工学とその臨床応用について概説する。組織工学が誕生した1980年代は、驚くべきスピードで様々な新しいタンパク質とその遺伝子が同定され、免疫や炎症といった様々な生命現象の分子的理解が確立されはじめていた時代である。多くの遺伝病の原因因子として様々な遺伝子の変異が同定された。たしかにこのような生命の分子生物学的理解は従来の診断・治療技術を大きく変革し、分子標的医薬の開発や遺伝子診断、遺伝子治療といった成果をもたらした。しかし、このような還元的理解が進めば進むほど、得られた描像が、生命という言葉が本来もっていた「生命らしさ」から大きく隔たっていく感を否定できない。たとえば、ビデオレコーダーとは何かを理解しようとする時、すべてを分解し、部品の特性や部品の内部で働く物理学と化学を明らかにし、そのつながりをもって理解と呼ぶことは可能である。しかし、逆に次のような理解もあるのではないか。すなわち、部品の内部で働く物理や化学を完全に理解することがなくとも、部品をある種のブラックボックスと見なし、調達した部品をアセンブルすることで一つの機械を作製し、これがビデオレコーダーとして動作するのであれば、この作業をおこなった技術者はビデオレコーダーを理解していると言えるのではないか。実際、開発の現場で起きているのは、多かれ少なかれこのような事態ではないだろうか。これは、ソフトウェアエンジニアのすべてがLSIの内部で働く物理学を理解している必要がないのと同じであるとは言えないだろうか。このような立場に立つとき、生命の非還元的理解とでも呼ぶべき理解の仕方が存在し、組織工学、再生医療はまさにこれに直結していると私は考えている。

 

● 参考文献

1) Amici AW, Yamato M, Okano T, Kobayashi K. “The multipotency of adult vibrissa follicle stem cells.” Differentiation, 77: 317-23, 2009.

2) Ohashi K, Yokoyama T, Yamato M, Kuge H, Kanehiro H, Tsutsumi M, Amanuma T, Iwata H, Yang J, Okano T, Nakajima Y. “Engineering functional two- and three-dimensional liver systems in vivo using hepatic tissue sheets.” Nat. Med., 13: 880-5, 2007.

3) Nishida K, Yamato M, Hayashida Y, Watanabe K, Yamamoto K, Adachi E, Nagai S, Kikuchi A, Maeda N, Watanabe H, Okano T, Tano Y. “Corneal reconstruction with tissue-engineered cell sheets composed of autologous oral mucosal epithelium.” N. Engl. J. Med., 351: 1187-96, 2004.

 

●  略歴

1994年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了 博士(理学)取得
1994年 日本大学薬学部助手
1997年 日本学術振興会博士研究員助手
1998年 東京女子医科大学医用工学研究施設助手
2000年 東京女子医科大学先端生命医科学研究所講師
2002年 東京女子医科大学先端生命医科学研究所助教授
2008年 東京女子医科大学先端生命医科学研究所教授

 

● 若手へのメッセージ

 現在に至るこの間に本当に多くの方々とお知り合いになることができました。良い研究をすることのモーチベーションの一つはたしかに患者の治療に貢献することですが、良い研究をし続けることによってのみ国内外を問わず多くの先生方と知り合えることが、大きなモーチベーションとなっていることは間違いありません。コミュニケーションの重要性を認識し、コミュニケーションに必要な人格を磨くことに精進してください。

 

● オーガナイザーからのコメント

 「トランスレーショナルリサーチ」という言葉を知っていますか?
 ある記事 (Nat.Med. 8: 647, 2002) によると、”基礎的な研究成果を臨床に応用することを目的にチームで行う研究”と定義されています。つまりたった1人の研究者では出来ないことを、多くの専門家が集まって行う研究と考えられます。WS演者である大和先生は、実用的で夢のある「細胞シート」のトランスレーショナルリサーチ研究を推し進めています。是非とも、基礎から臨床までの研究者の共演による、素晴らしいシナジー成果と再生医療の可能性を一緒に感じてみませんか?

 生命科学とは生命を取り巻く関連諸科学の総称であり、この会には、医薬理工農と各々が特色特長を持った研究者が集まっています。昨今の生命科学を取り囲む技術進歩により、「生命」理解の研究は確実に進みました。一方で、その生命科学の発展は専門化を促し、生命科学の複雑化を招いているように感じます。今、私たち若手研究者が協力し合い交流し、各々の専門を活かした生命科学の研究を考えることが大切なのではないでしょうか。研究成果の”in vitroからin vivoへ、そして「生命(いのち)」への貢献”には、多くの専門家が集まって行うトランスレーショナルリサーチが大切だと感じています。
 iPS細胞の樹立は、再生医療を身近な言葉としましたが、実用化にはまだまだ時間が必要です。本公演では、「細胞シート」を用いた再生医療という、実用化にまで迫った組織再生技術についてお話して頂きます。大和先生の研究機関では、医薬理工農など異分野の研究者が集まり協力したトランスレーショナルリサーチを進めておられます。先生はとてもユニークな方ですので、興味深いお話が聞けると思います。ご来聴の皆様には、再生医療についての実際の現場と最先端技術を学ぶとともに、先生の研究の考え方や研究スタイルにも注目して頂ければと思っています。
 

 
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