細胞と細胞外マトリクスの力学的相互作用を測る
〜体の柔らかさの意味を考えてみる
原田 伊知郎 先生
(東京工業大学大学院 生命理工学研究科 助教、JSTさきがけ)
● 要旨
生体内の細胞は細胞外マトリクス(ECM)を認識してそれらに接着することで機能を十分に発揮する。生体中にある細胞は適切に空間配置された様々なECMを個別のインテグリンによって認識し、それに対応したシグナルが誘起されることが示されてきている。さらに、細胞が認識しているのは単に分子種だけではなく「種類」、「空間情報」、「物性」、を合わせて検出していることが明らかになってきた。特に近年、細胞が接着している足場の固さは顕著に細胞の分化能や形態形成などに直接関与することが示されつつある1,2)。しかし、細胞がどのように周辺の力学環境の違いを検出しているのかは全く不明である。我々は接着基質の力学的強度を細胞がどのように検出しているのか、またその結果どのように細胞機能に影響を与えるのか調べる目的で様々な固さのハイドロゲルに細胞を培養し、細胞の振る舞いについて解析を行ってきた3)。現在,そのメカニズムの詳細に迫ることを目的に、細胞と細胞外マトリクスとの力学的相互作用の可視化および計測技術として微細加工培養基盤の開発を進めている。その方法としてマイクロニードルをアレイ化した培養基盤を作製し、細胞が林立したマイクロニードルにどのように力を印可するのか、また細胞が足場へ及ぼす力はどのように動的に変動するのか等について解析している。それらのデバイス設計と弾性体基盤上における細胞の振る舞いについて紹介する。
● 参考文献
1) Engler,A.J. et al.: Matrix elasticity directs stem cell lineage specification. Cell 2006; 126: 677-689
2) Harada,I., et al.,: A simple combined floated and anchored collagen gel for enhancing mechanical strength of culture system. J Biomed Mater Res. 2007; 80:123-30
3) Yamaki,K., et al.,: Regulation of cellular morphology using temperature- responsive hydrogel for integrin mediated mechanical force stimulation. Biomaterials 2009;30:1421-1427
● 略歴
平成6年3月 東京理科大学理学部物理学科卒業
平成13年3月 東京工業大学理工学研究物理学専攻科博士課程修了
平成13年〜平成15年3月 東京工業大学生命理工学研究科赤池研究室博士研究員
平成15年〜現在 助教(東京工業大学大学院生命理工学研究科)
平成19年10月〜 日本科学技術振興機構さきがけ研究者兼任
● 若手へのメッセージ
私は学位を取るまでずっと物理系の研究室でしたから、電気泳動なんかやったことがないばかりか、それでなにが分かるのかも知らないような状態でバイオの分野へ飛び込んでみました。ですので、現在の研究も始めた当時はトンチンカンな発想でしたが(今もそうかもしれませんが・・)、思い切って新しいことに挑戦できたのだと思います。支えになったことは様々な研究分野の方達との交流でした。限られた時間ですからこれから皆様とも大切な時間の共有ができればと思います!
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