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発生学の未来について
近藤 滋 先生
(大阪大学大学院 生命機能研究科 教授)
● 要旨
自然科学は、自然現象を理解するために生まれるものだと理解している。当然、理解されてしまえば、その研究分野は発展的に解消し、さらにその先にある謎に 研究対象は移行して行ったり、あるいは応用的な分野として存続することになる。物理学・化学がその典型的な例であり、分子>原子>素粒子>クオーク>、と 研究対象が移行していった歴史は、誰もが知っているとおりである。
では生物学はどうだろう?「遺伝の法則」が生物学における最大の発見の一つであるが、それは分子生物学によってひとつの理解に到達した。もはや、「遺伝の仕組みとは?」というテーマで研究している人はいない。と言うことは「遺伝学という基礎の研究分野はもう無いと言うことだ。同様に、進化に関しても、進化の基本原理が「ランダムな変異と自然選択」であると言うことを認めているのであれば、もう研究分野としては完結してしまっている。シーラカンスがどのように進化してきたか、と言うのは「シーラカンス学」であって進化学ではない。それがわかっても、進化の理解の枠組みには何の変更も与える可能性が無いからである。
さて、それでは発生学はどうだろうか?この20年間で、膨大な量の分子と発生に関する情報が蓄積された。しかし、発生学が終わったと主張する人はいない。ということは、発生の原理は未だにわかっていないことになる。だとすれば、このまま似たような分子解析を続けていても、埒が開かないのではないか?
では何をするべきだろう?「発生現象を理解した」とわれわれが感じるためには、いったいどのような研究成果が上がればよいのだろうか?
● 参考文献
1) Interactions between zebrafish pigment cells responsible for the generation of Turing patterns.
Nakamasu A, Takahashi G, Kanbe A, Kondo S.
Proc Natl Acad Sci U S A. 106(21):8429-34. (2009)
2) Theoretical analysis of mechanisms that generate the pigmentation pattern of animals.
Kondo S, Shirota H.
Semin Cell Dev Biol. 20(1):82-9. (2009)
3) A reaction diffusion wave on the skin of the marine angelfish Pomacanthus
SHIGERU KONDO & RIHITO ASAI
Nature 376, 765 - 768 (1995)
● 略歴
2000,10〜 バーゼル大学バイセンター・PD
2003, 4〜 京都大学医学部・助手
2007、 4〜 徳島大学総合科学科・教授
2001、 4〜 理研CDB・TL
2003,12〜 名古屋大学生命理学研究科・教授
2009, 8〜 大阪大学生命機能研究科・教授
● 若手へのメッセージ
最近は、いろいろと情報がありすぎると思います。勉強しすぎて疲れると、オリジナルなことを考えられなくなりますので注意しましょう。流行っている研究に対して「でも、それって特に面白くないぞ」と感じたら、その思いを大切にしましょう。で、なぜそう感じるのか、どうすれば面白くなるのかを考えましょう。その答えが見つかれば、オリジナルな研究者への道が開ける可能性があります。(もちろんあくまでも可能性ですが・・・)
● オーガナイザーからのコメント
皆様、「発生学」に興味はありますか?
そもそも発生学とは何を研究しているのでしょうか。端的に言えば、ひとつの丸い受精卵からひとりでに複雑な体の形が作られていく過程や仕組みを解き明かすことが発生学の目標だと言えます。要するに「単純 → 複雑」の「→」のところがどうなっているのかを研究しているわけです。
私自身は学部時代に、初めて発生学の講義を受けたとき、残念ながらあまり興味を持つことはできませんでした(T先生、ごめんなさい)。それはもちろん、自分の知識不足が大きかったのですが、なにより気に食わなかったのはものすごい数の分子・遺伝子の名前が次々に出てきたからです。しかもそれらの活性化や抑制などの関係が線でつながって複雑に絡み合っているのです!自分は元々、暗記よりも物理や数学のように基本の法則からものごとを説明する方が好きなので、これはつまらないと思いました。皆様の中にもそんな「もやもや」を感じたことのある方はいませんか?私はそれを引きずりつつも、その後いろいろあって今では日々、苦しんだりわくわくしたりしながら発生を研究しています。
今回ご講演いただく近藤先生は、発生学の中でも動物の「模様」を研究されています。50年以上前にイギリスの数学者チューリングは「反応拡散系」によって生物の体に見られるような様々な模様を説明できるという仮説を提示しました。しかし長い間この説は、その美しさから多くの理論家を引きつけてきながら、それを裏付ける実例がありませんでした。近藤先生は魚の模様の変化がチューリングのモデルにより説明できることを世界で初めて示されました。
今回のご講演では、先生から今後発生学が目指すべき方向についてうかがうことができると思います。その中で、ご来聴の皆様、特に(私自身を含め)「もやもや」をお持ちの方には、それを解消するためのヒントを見いだしていただけるのではないかと期待しています。発生学と関係ない方にとっても数理生物学へのこの上ない、いざないとなることでしょう。
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