生化学若い研究者の会
2009/09/27 Sunday 00:03:19 JST
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prof_ueda.png生物学的時間のシステム生物学

上田 泰己 先生
理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
システムバイオロジー研究チーム兼 機能ゲノミクスユニット
「細胞を創る」研究会 会長

 

● 要旨

 ヒトの体の中には自然が創り上げた時計がある。体内時計や概日時計と 呼ばれるこの時計は、約24時間の周期でリズムをうち、光や温度の変化を感知してリセットされ、体内で起こる様々なイベントのタイミングを調節している。 花が決まった時間に咲くように、ヒトは朝自然に目が覚め、花がある時刻が来ると閉じるように、ヒトも夜になると自然に眠たくなる。皮膚や心臓や血管を初め として、腸や肝臓などのほとんどの臓器に体内時計をもった細胞があり、体の様々な場所に時計細胞が存在する。決まった時間に「腹時計」が鳴 るのも、実は物理的な実体がある。このように体全身に無数に散らばっている時計細胞は、全体として統一的な時間を刻んでいる。
無数にある時計細胞が統一的な時間を刻むために、いわゆる電波時計と 同じようなシステムがヒトの体内でも実現されている。体の各臓器にある少し不正確な時計細胞(いわば末梢時計)が、脳の中にある非常に正確な時計(いわば中枢時計)と通信して定期的に時刻あわせを行うことで、体全体として統一的な時間を刻むことができるのである。
近年、これら末梢時計や中枢時計をつくりあげている一つ一つの時計細胞の中に、朝・昼・夜の三つのスイッチ(転写プログラム)があることがわかってきた。このスイッチを押したり、消したりする役目を担っているのが、時計遺伝子で二十個程存在することが現在までにあきらかになった。さらに、体内時計は、朝・昼・夜といった一日の中での時間だけではなく、夏や冬といった一年の中での時間、つまり季節を感じ取る際にも重要であることがわかってきた。 夏は「日が長い」ということで感じ取れるように、体は「日の長さ」によって四季を感じ取っている。その日の長さを測るときに体内時計が重要な役割を担っている。例えば、体が「夜」の状態のときに光が飛び込んでくると「日が長い」と感じ、いまは「春」だと結論する。体内時計と飛び込んでくる光の情報とを利用した、いわば体内カレンダーが体の中には存在する。ワークショップでは、生物学的な時間の解明の現状について紹介するとともに、生体の時間システムを同定し([1])、測り([2])、操り([2])、創る([3])方法について議論したい。また医学応用として体内の時刻を測定する方法([4])についても紹介する。

 

● 参考文献

1)    Ueda et al., Nature Genetics 37:187-192 (2005).
2)    Ukai H, et al, Nat Cell Biol.  9:1327-34 (2007).
3)    Ukai-Tadenuma M, et al, Nat Cell Biol. 10, 1154-63(2008).
4)    Minami, et al, PNAS  (2009).

 

● 略歴

1994.3        久留米大学附設高校卒業
2000.3        東京大学医学部卒業
2004.3        東京大学大学院医学系研究科博士課程終了
1997-1998     ソニーコンピューターサイエンス研究所
1998-2000        ERATO北野プロジェクト
1999-2004         山之内製薬株式会社
2003- 現在    独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(CDB) 
システムバイオロジー研究チーム チームリーダー
2004- 現在    CDB 機能ゲノミクスサブユニット ユニットリーダー(兼任)
2005-2006              東北大学 加齢医学研究所 客員教授(兼任)
2005- 現在    徳島大学 ゲノム機能研究センター 客員教授(兼任)
2006- 現在    大阪大学 理学研究科(生物)連携大学院(招聘教授)
2009-         京都大学 理学研究科(数学)併任教授
Lab. HP:http://www.cdb.riken.jp/lsb/jpn/index.html
E-mail:uedah-tky@umin.ac.jp

 

● 若手へのメッセージ

「生命」とは何か。「健康」とは何か。「精神」とは何か。現在の生命科学・医科学はこれら概念についていまだ明確な定義やそこへいたるビジョンを提供できずにいます。現在の生命科学・医科学を乗り越えていく道は何か、その向こう側にはどのような生命科学・医科学の地平がありうるのか、について皆さんと議論できることを楽しみにしています。 また、「細胞を創る」研究会2.0を今秋10月1日~3日に東京大学医学部鉄門記念講堂にて開催いたしますので、興味がある方は是非ご参加ください(http://www.jscsr.org/sympo2009/)。

 

● オーガナイザーからのコメント

現在「分子レベルの生命の理解」から「システムとしての生命の理解」へと大きくトレンドが変化しており、実験と計算を融合させたアプローチが求められています。
27歳という若さで理化学研究所のチームリーダーに抜擢された上田先生は早くからその流れを意識し、医学部時代からシステムバイオロジーの第一人者である北野宏明氏の元で計算手法を学び、外部研究員として製薬企業で研究に携わるという、非常にユニークな経験を積まれてきた方です。時計遺伝子の研究で既に大きな業績をあげられており、世間の注目度も高く、今年三月には『情熱大陸』に出演されました。
上田先生はシステムバイオロジーの最前線を行く非常に勢いのある研究者ですが、ご多忙の中、今年はわざわざ夏学のために時間を割いて下さいました。研究内容自体のおもしろさはもちろん、やわらかな物腰や前例のないフィールドへためらわず飛び込む姿勢からも、若手は大いに学ぶ所があると思います。
 

 
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