生化学若い研究者の会
2008/07/26 Saturday 01:04:45 JST
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2006「春のセミナー」要旨

    においとフェロモンの分子生物学:

    嗅覚コミュニケーションの多様性と進化

東原和成 (東京大学大学院新領域創成科学研究科)

 人間社会で嗅覚は五感のなかでも最も軽視されているが、多くの生物では、食物認知、個体認識、生殖行動の誘発など生存に不可欠な行動や習性に匂いやフェロモンが深く関わる。匂いセンサーである嗅覚受容体は、多重遺伝子群を形成しており、Gタンパク質共役型受容体のなかでも最大のサブファミリーを形成している。我々は、嗅覚受容体の機能解析を、単一匂い応答嗅神経細胞からの機能的クローニングという逆転の発想で成功させ[1]、その後、嗅覚受容体が多種多様な幅広い匂い分子を正確に識別するメカニズムを明らかにしてきた[2-4]。また、カイコガ性フェロモンの受容体の同定および機能解析に成功し、高感度・高選択性の昆虫フェロモンセンサー機構を明らかにした[5]。マウスでは、遺伝子にコードされている新規ペプチドがオスの涙腺から分泌されてメスの鋤鼻器官に取り込まれ、V2R受容体発現神経を刺激することがわかった[6]。  これらの成果は、現代はやりの網羅的スクリーニングでは得られなく、様々な手法を融合させて現象と機能を見据えた多角的アプローチではじめて可能となったものである。ポストゲノム時代において、忘れがちな古典的生化学的戦略、すなわち、活性天然物同定から受容体遺伝子決定と機能解析というアプローチを再確認したい。そして、一見狭くて俗っぽい匂いやフェロモンの研究は、実は、分子生物学、生化学、内分泌学、神経科学、生態行動学、分子進化学といかに領域横断的であるかが本講演で伝われば幸いである。(本研究は、生研センター、文部科学省、学術振興会からの研究費によって行われた。)

主要原著文献

1. Touhara, K., et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 4040 (1999)

2. Kajiya, K., Inaki, K., Tanaka, M., Haga, T., Kataoka, H., and Touhara, K.: J. Neurosci. 21, 6018 (2001)

3. Oka, Y., Omura, M., Kataoka, H. and Touhara, K.: EMBO J. 23, 120 (2004)

4. Katada, S., Hirokawa, T., Oka, Y., Suwa, M., and Touhara, K.: J. Neurosci. 25, 1806 (2005)

5. Nakagawa,T., Sakurai, T., Nishioka, T., and Touhara, K.: Science 307, 1638 (2005)

6. Kimoto, H., Haga, S., Sato, K., and Touhara, K.: Nature 437, 898 (2005)

最近の日本語参考文献

・生化学 2005年12月号

・現代化学 2005年12月号

・細胞工学 2006年4月号

研究室ホームページ:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/molecular-recognition/touhara/kyukaku.html


    脊椎動物の分節性確立機構

    Mechanism for establishing metamerism in vertebrates

相賀裕美子(国立遺伝学研究所) Yumiko Saga (National Institute of Genetics)

我々脊椎動物の身体は、その名のごとく脊椎骨を持つ動物である。この脊椎骨や肋骨、そしてそれに沿って走る神経、血管などの構造は繰り返し構造(分節構造)をしめすが、この分節性はすべて発生過程に一過的に形成される「体節」に依存する。体節は尾部の突端である尾芽領域から供給される沿軸中胚葉が、神経管に沿って一定間隔でくびれ切れることで、形成されるブロック状の細胞塊である。尾芽から体節となるまでの中胚葉組織を未分節中胚葉と呼び、この領域内での細胞内及び細胞間の情報伝達が規則正しい分節のタイミング(マウスでは2時間毎)を決定している。その中でも特に、Notch シグナルに関わる因子が体節形成に必須であることがノックアウトマウスの解析で示された。また、Notchシグナルに関わるいくつかの遺伝子の発現が、体節形成の周期に合わせて尾側から頭側へ、波をうつように発現を変化させる特殊な発現パターンが見いだされた。これは、未分節中胚葉の個々の細胞が周辺の細胞と同調しつつ、発現のオン・オフをくりかえす(振動)ことで発現が前方に向かって波状に進むパターンとして観察される。そして、この波が未分節中胚葉を一度通過するたびに一つの体節がつくられる。古くから体節形成の規則性を理論的に説明するために周期性を生み出す分子時計の存在が想定されていたが、このような遺伝子の発見は、まさにその証明となった。さらにこの時計は正確に停止して、分節構造を形成するための制御を受けている。我々はその時計の停止に関与する転写因子Mesp2の機能解析を続けてきた。多くの変異マウスを駆使した遺伝学的解析により、Mesp2はNotchシグナルを抑制することにより、分子時計を停止し分節を開始させる鍵となる遺伝子であることが明らかになってきた。この会では私のこれまでの研究を通して見えてきた個体レベルの機能解析の重要性とその問題点に関して皆さんと議論したいと考えています。

参考)

Saga, Y, Takeda, H. The making of the somite: Molecular events in vertebrate segmentation. Nature reviews genet. 2:835-845, 2001

Takahashi Y, Inoue T, Gossler A, Saga Y. Feedback loops comprising Dll1, Dll3 and Mesp2, and differential involvement of Psen1 are essential for rostrocaudal patterning of somites. Development 130:4259-4268, 2003.

Morimoto M, Takahashi Y, Endo M. Saga Y. The transcription factor Mesp2 establishes segmental borders by suppressing Notch activity. Nature 435:354-359, 2

 
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