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「生命リズムの科学・文化史・アート:複眼的迷走のススメ」
「生命」という自然言語は,生物学の知識がなくとも漠然とほとんどの方々に認識され,イメージを獲得しています。生物学の中にも様々なスタンスがあるように,生命の探究もまた生物学の専売特許ではありません。その意味で,生命について生物学・生命科学が探究する,という時,その周辺領域にどのような関連分野がとりまいているのかを考えておくことは,科学者としても重要だし,なにより面白いテーマだと思います。とはいえ,あまりに大風呂敷を広げても呆然としてしまうので,私は主に生命とリズムの関係性についてちょこちょこ調べてきました。
言うまでもなく,生命は,体内時計,細胞分裂,脳波,心拍,睡眠覚醒などなど,さまざまな振動現象に満ちた存在です。生物の形作りにも,実は振動現象が重要な役割を果たすことがわかってきつつあります。この講演では,生命科学的な研究の紹介に加えて,「リズム・時計・生命」を巡る豊かなイメージや言説を文化・歴史・アートの中に読み解く文化誌研究について,以下のような三部構成でお話し,異分野並行プロジェクトの魅力を少しでも伝えられれば,と思っています。まあ,タイトルのように迷走することになるわけですが…。
1) バクテリアを用いた体内時計・形態形成ネットワークの実験・理論解析:
リズムや形態形成など,生物の示す動的で複雑な生命現象は単一遺伝子の機能に還元できず、複数の分子が構成する動的な非線形ネットワークとしてとらえることが必要になります。私が扱っているシアノバクテリアは、時空間パターン形成を示す最も単純な生物群で、シャープなネットワーク解析を行ううえで格好のモデル系です。従来の分子生物学的解析に加え,数理解析・定量的観測検証系を併用することで,パターン形成ネットワークの原理の理解を深めたいと考えています。時計遺伝子の同定,従来の振動モデルの反証,構成生物学的手法を用いたネットワーク解析などの体内時計の研究に加え,数理モデル・マイクロデバイス・長期一細胞観測操作系などを駆使して最近立ち上げつつある空間パターン形成研究の概要をご紹介します。
・ Tomita, Nakajima, Kondo, Iwasaki (2005) Science 307, 5707: 251-254
・ Nakajima et al. (2005) Science 308, 5720: 414-415
・Takai, Nakajima, Oyama, Kito, Sugita, Sugita, Kondo, Iwasaki (2006) PNAS, in press
・Iwasaki et al. (2000) Cell 101: 223-233
2) 生命リズムの文化誌:
もともと,私は体内時計の研究に興味を持ったのは,その生物学的な面白さよりも,むしろその文化誌・科学史としての面白さからでした。いまは生物学的な興味もそれに劣らずありますが,文化誌としての研究課題として,今なお生命リズムはモデルケースとして面白いと思っています。
生命とリズムを巡っては,古来様々なイメージや連想が培われてきました。たとえば,洋の東西を問わず,天体周期(マクロコスモス)と人体(ミクロコスモス)の対応関係は注目を集め,占星術や医術に援用されていました。興味深いことに,生命とリズムへの言及は,あらゆる分野での近代化の時代を迎えた19世紀末~20世紀初頭の欧米圏でひとつのピークを迎えます。この潮流は,文理,芸術を問わず大きな影響力を持ちました。「生命とリズム」の喚起するイメージが,時代を超え,形を変えながら,今なお私たちの社会や文化に陰に陽に息づいていることを,アート,文化,風俗などの事例を挙げながら考察したいと思います。
・岩崎秀雄(2004)「隠喩としての生命リズム:その歴史・文化・科学・芸術」『COLD_SCHOOL MS004:講義としての芸術』(メディアセレクト)
・岩崎秀雄(2005)「生命リズムへの複眼的まなざし:生物リズムの文化誌と分子機構」『科学』(岩波)1388-1395
3) 美術造形活動の紹介:
切り絵は紙を切り抜いて平面像を作る技法で,様々な国や地域で独自の展開を遂げてきました。従来は比較的保守的な工芸という側面が強かったのですが,最近では先鋭的なモダンアートとしても取り上げられつつあります。私も立体造形としての抽象的な切り絵作品を創っています。折角の機会ですので,ご紹介したいと思います。
・http://www.f.waseda.jp/hideo-iwasaki/papercut.html
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