|
「地上最小の回転モータ、ATP合成酵素のエンジンとブレーキ」
なぜ、車輪で走る動物、スクリューで泳ぐ魚、プロペラで飛ぶ鳥はいないのだろう。タンパク質の世界でも、回転することが実証されているのは細菌の鞭毛とATP合成酵素の2つだけである。地球の全ての生物がお世話になっているATP合成酵素では、中央のシャフトがくるくる回転し、そのシャフトの先端が活性部位を動かしてATPが合成される。生物は回転が好きではないかもしれないが、少なくとも不得意ではなさそうだ。では一体どんな仕組みで、タンパク質で出来ているATP合成酵素が回転するのだろう。また、この回転はどのような制御を受けているのだろう。
ATP合成酵素は、2つのモータの複合したものである。つまり、ATP加水分解で駆動される F1 モータと、プロトン(つまり水素イオン)で駆動されるFo モータである。そして両者は、共通のシャフト(回転軸)で連結されている。Foモータがプロトンで回転すれば、F1モータは逆回転を強いられて、その結果、ATPが合成される。
F1 モータの回転は直視できる。これはパワーストロークで動くらしい。バナナのような形をした回転シャフト(γ)を、2種のタンパク質(αとβ)からなる6角形の固定子リング(αβx3)が囲んでいる。3つのβは「く」の字型をしており、これがATP加水分解によって周期をずらして伸縮運動をする。それにつれてバナナの凸部が押されて120度のステップで回転する。
Foモータの回転は、まだぐるぐる回るのを直接見ることはできていないが、生化学的な証拠がある。Foモータは、多分、ブラウニアンラチェットで動くモータだろう。ここでも数年前には誰一人予想することができなかった(一見)奇妙なことがおきているらしい。
やみくもに回るだけでは細胞の直面するいろいろな状況に対処できない。つまり、このモータには、制御装置あるいはブレーキが必要である。この点について、最近、2通りのブレーキシステムが解明されつつある。つまり、エンジンブレーキとデイスクブレーキのような仕組みがある。デイスクブレーキの方はブレーキ役のタンパク質があっと驚くような大きな構造変化を起こして、回転をスローダウンさせる。
|