生化学若い研究者の会
2008/07/25 Friday 03:43:56 JST
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丹羽仁史先生<要旨>

「マウスES細胞の自己複製と分化を制御する分子機構」


 幹細胞は自身とは異なる表現型を示す細胞を生み出す能力(分化能)と自身と同じ分化能を持つ細胞を生み出す能力(自己複製能)を併せ持つ細胞として定義される。幹細胞が有する最も高度な分化能=身体を構成する全ての種類の細胞に分化できる能力は、多能性と呼ばれる。初期胚に由来する幹細胞であるES細胞は多能性を有したまま長期間培養が可能であることから、この多能性を規定する分子基盤の解明するうえで、格好の研究材料となる。我々はマウスES細胞の多能性維持に関与する転写因子の機能解析を行ってきたが、その結果として、その分子ネットワークを垣間みることが出来る地点まで到達しつつある。即ち、多能性維持には大別して3つの転写因子ネットワークが機能している。これらは、(1)Oct3/4-Sox2-Nanogからなる未分化特異的転写因子ネットワーク、(2) Cdx2を含む栄養外胚葉特異的転写因子ネットワーク、(3) Gata6/Gata4を含む胚体外内胚葉特異的転写因子ネットワーク、からなり、それぞれがpositive feedback機構を有しているので、基本的にそれぞれのネットワークは自律的に定常化しうる。一方で、これらのネットワーク間には相互抑制機構が存在し、互いのネットワークの共存を許容せず、排他的競合をもたらす。例えば、(1)と(2)の間では、Oct3/4とCdx2の間にこのような相互抑制機構が存在し、これが初期胚においても多能性細胞集団としての内部細胞塊と栄養外胚葉を分離するために働いている可能性が高いことを、最近報告した(Niwa et al., 2005)。また、(1)と(3)の間では、NanogとGata6の間に相互抑制機構の存在が示唆されている。さらに、(2),(3)は間接的にも (1)を抑制するようなnegative feedback機構を有しているので、これら3つの細胞運命は明確に区別されることが保証されている。このような分子機構の存在から、多能性維持機構の一端は、「門番的役割」として集約できることになる。このような機構は、幹細胞の分化モデルとして一般的に通用しうるものであり、今後の他の幹細胞システムの解析への応用を期待したい。

 
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