生化学若い研究者の会
2009/09/27 Sunday 00:04:27 JST
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大隅典子先生<要旨>

「社会の中の研究者として:多様なアウトリーチ活動の必要性」

 研究にかかる費用のほとんどすべては税金である。したがって得られた成果は社会に還元されなければならない。平成18-22年度をカバーする第3期科学技術基本計画の冒頭にある基本理念の中には「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」として謳われている。
 「還元」の仕方は多様である。まず第一に、得られた成果を「論文」という形で情報発信する必要がある。最先端の研究領域では競争も激しく、より早く、より良い雑誌に発表することが求められているのは言うまでもない。「論文」という形態は、専門家に向けた還元であるが、科学者コミュニティーの中でさらなるアイディアの創発につながるという意味で重要である。「論文」の前に、やはり専門家を対象とした「学会発表」というステップを踏むことも多いが、私は学会発表は「還元」というところまでは至っていないと考える。
 論文によっては「プレス発表」を行い、新聞や研究機関のホームページ等に記事が掲載される場合もある。「論文」が通常、英語で書かれていることから、分かりやすい日本語に直した記事は非常に重要であると思われる。ただし、雑誌のオンライン発表時刻以降に新聞報道されるのが約束だが、一般国民が読む新聞で一刻を争う必要があるのかについては、首をかしげたくなる。また、新聞の記事はあまり長い期間web上に置かれないことは残念である。
 ある程度の成果を挙げ見識も深めた研究者で文章を書くことが好きであれば、是非、専門書や啓蒙書を書くべきである。ただし、日本語で書かれたものは世界中に出回る訳ではないのが残念だ。
 学会や研究機関、あるいは日本的な「研究班」では、最近とくに「市民講座」のようなシンポジウムやセミナーを企画することが多くなってきた。聴衆には大変熱心な参加者も多いのだが、数百人の一般市民に対する講演で、聴衆を飽きさせず、なおかつ正確な科学情報を伝えるのは実は非常にスキルが必要なことである。
 上記がだいたい“古典的な”社会への還元方法であるが、現代的なものとしては、まず研究室のホームページ等に成果を記載しておくことが挙げられる。この場合には、比較的長期にわたって記事はweb上に載っているので、Googleすれば一般市民でも情報にたどり着ける(もちろん、PubMedのabstractまではたどり着けるのだが、英語であるという点と、専門家向けである点が日本の市民にとってはフレンドリーでない)。また、「市民講座」ではなく「サイエンスカフェ」というスタイルで、少人数向けのアウトリーチ活動も注目を浴びるようになってきた。ただし。通常は数十人相手であるので、何度も行う必要があるだろう。研究機関等の広報誌に研究成果のエッセンスを記事として載せるというやり方もある。この場合には、編集者がどのくらい読者に興味を持ってもらえる誌面構成にするかなどの工夫が大切であろう。さらに、オープンキャンパス等で研究機関を解放し、実験のデモンストレーションをするというような機会も増えてきている。アメリカでは私立の研究機関が多く、財源を寄付に頼っていることから、研究者と市民の交流のコンサートとパーティーなどの企画も頻繁に行われている。このような取り組みも今後より必要であるかもしれない。あるいは、市民と研究者が双方向に意見交換に参加できるようなwebsiteも面白い。日本人は「黙っていても通じる」社会に慣らされてきたが、これからは同じ目線の高さの「対話」が重要である。
 次世代を担う若手研究者に臨むこととしては、まずは良い研究成果を挙げることである。研究分野の中、社会の中における自分の研究の立ち位置を知ることからアウトリーチは始まる。そして、異なるバックグラウンドの聴衆や読者に対して、どのように伝えたら分かりやすいかについて、少しずつスキルを磨いてほしい。研究者ではない周りの家族、隣人等に、あなたがどんな研究をしているか伝えてみて下さい。それも、アウトリーチの第一歩です。
(参考URL)文部科学省・科学技術基本計画http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/main5_a4.htm

 
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