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知性の生物学
ヒトの知性を特徴づける『言語』の起源に関する多くの説に従えば、ヒトの祖先はその環境の中にある様々な物を指し示すために個別の身振りや音声を割り当て(象徴的意味表現)、それを他の個体に伝達するために共通理解可能な法則(統語・文法構造)を創り出し、さらにそれらを自由に関係化・再構造化すること(象徴操作)を発明・進化させて言語機能の獲得に至ったとされる。すなわち、言語機能の本質的部分を担うのは、『事象をシンボル(象徴)化しそれを操作する』能力である。道具を手に持つと、それは物理的・機能的に手の延長となり、自己の体に同化して、自己意識や身体像が意図によって変化する。ここには、「自己と周囲の空間を認識し、これを機能に基づいて意識的に構造化して、さらにそれを操作する」という柔軟な空間構成能力、あるいは洞察的なゲシュタルト転換能力が要求される。すなわち、道具使用行為の根底にもまた、自己および環境の空間構造を認識し、さらに物理的拘束条件を離れてそれを操作・再構造化する『シンボル操作』の機能が想定される。
頭頂葉後方下部領域近傍は、体性感覚、視覚と、ときに聴覚、の複数の感覚が統合される脳領域であり、ヒトでは、この脳領域の損傷によって意味表現や象徴作用が障害されることが知られている。熊手状の道具を使って手のとどかない遠くの餌をとるように訓練したニホンザルのこの脳領域に、体性感覚と視覚を統合して身体図式をコードするニューロン群をみつけた。これらのニューロンは、道具使用に伴う意図的な身体図式変換に対応して活動した。さらに、直接手元を見る代わりに、モニタ上に写された自分の手のリアルタイム映像を見ながら餌をとるようニホンザルを訓練すると、上記ニューロンの視覚受容野はモニタ上に映写された手の周囲に出現し、それは映像の拡大/縮小や位置の移動に従って変化した。さらに上記脳領域のニューロンは、映像効果技術を使って変化させたり、実際には見えない想像上の身体像に対しても同様に活動した。したがって、この領域のニューロンには、多種感覚の統合によって手の機能的意味を象徴的にコードし、それを意図的に自由に操作する能力が獲得されたものと考えられる。サルのこの脳領域で行われている情報処理は、言語機能の進化・発達への橋頭堡となる、「象徴的思考(symbolism)」のはじまりの一端を担うものと想定される。
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