■連載「若手研究者の結婚・子育て」■

本シリーズは蛋白質核酸酵素(共立出版)2004 年 8月号 〜10月号に掲載しております。
2004 年 8 月号 若手研究者の結婚・子育て(1) 若手キャリアプラン検討会
2004 年 9 月号 若手研究者の結婚・子育て(2) 若手キャリアプラン検討会
2004 年 10 月号 若手研究者の結婚・子育て(3) 若手キャリアプラン検討会
感想・コメントはこちらへ
(掲載号発売日から1ヶ月後より当websiteへ順次掲載いたします。最新号は共立出版"蛋白質核酸酵素"をご覧ください。)


(蛋白質核酸酵素8 月号 Vol.49 (2004)より許可を得て転載)
若手研究者の結婚・子育て(1)

 最近、日本学術振興会の特別研究員や海外特別研究員が、出産や育児で15ヶ月間研究を中断できることになった。研究業界でも子育てへの理解はしだいに深まってきていると感じる。今回のキュベットは、“若手研究者のキャリアプランとしての結婚・産休・育児”について取り上げてみたい。結婚・育児には経済的・時間的・環境的にさまざまなハードルがある。収入のない院生・時間貧乏の実験系研究者には危険な選択だともよくいわれる。けれども大学院生・ポスドクの多くは、世間的にいえば“結婚適齢期”の若い男女だ。なるべく視野を広げて先達の成功例に学びながら、キャリアと結婚・育児を両立させうる方法を模索してみよう。既婚者や上の世代にとっては語り尽くされた話題かも知れないが、今まさにキャリアと結婚・子育てを両立していこうとする若手に考えるキッカケと勇気を提供できれば幸いである。

●若手研究者と結婚
 研究者の結婚には、ひとつの定番がある。博士号取得にあわせて結婚する、というスタイルだ。無給に近い大学院時代を乗り切り、晴れて研究職(最近ではポスドクや企業研究者など)につくと、念願の経済的基盤を手に入れることができる。ひとつの良い契機となるのだ。ところが近年、この定番から前後に数年ずらした時期を選択する人も増えているという。後者は期限付き研究員の立場では結婚を選びにくいというケースである。“ポスドクジプシー”という言葉の響き通り、1stポスドク、2ndポスドク、3rdポスドクと任地を変えて渡り歩くこの時期、パートナーも職をもっていると一緒に渡り歩くのはむずかしい。共働きを前提に考えている最近の若い世代の中で、ポスドクの地理的不安定さはハードルの高さを上げる要因となっている。それならば、学生結婚のほうが良い選択だ、と考える人たちもいる。院生の学生結婚は、今も昔も研究業界ではよくある話なので、幸い理解されやすい土台がある。ともあれ、結婚の時期は人それぞれ。院生の学生結婚・出産も、ポスドクの結婚・出産も、それを選択する人たちにとっては大切なキャリアプランだ。その選択を実りあるものにするために、ノウハウの蓄積と公開が大切であろう。

●パートナーシップと周囲の理解
 既婚者の話を聞くと、結婚に際して大切なこととしてよく話題になるのが、パートナーに「研究職という職を理解してもらうこと」である。研究職というのは、労働時間が決まっているわけではないので、土日でも研究したりする。研究時間が業績に比例しがちな分野では家庭でもラボでも軋轢が生じやすいので、特に大切なことだ。
 また、周囲の理解と応援も大切だ。たとえば、大学院生なら、学生結婚することを選択したときに、指導教官の理解と協力があればどれだけ心強いことか。所属する研究室のボスに無断で結婚のみならず出産・育児に突入してしまうことなど、トラブルの基になるのでお勧めできない。両親など身内だけでなく、職場・研究室でも応援されるような結婚生活をすることが、後の産休・育児への理解と応援につながる。

●生活時間のやりくり
 結婚して共同生活を始める場合、誰もが直面する問題が家事の分担だ。使い古された話題かも知れないが、女性側からみると多くの男性に温度差が今でも残っているらしい。古い世代は奥さんに多くを任せるというケースが多かったが、最近の若い世代では、家事は2人で等分担していることが多いのは間違いない。男女を問わず、結婚すると家事などの負担で実験ができなくなるということを心配する人も多いが、どちらか一方が全てを負担するというのではなく、2人でうまく割り振ること、もっと言えば、互いの仕事の忙しさに合わせて分担に緩急つけられるくらいがちょうどよいのかもしれない。経験者が語るには、ここで互いのペースを把握しあうことが、のちの「育児」という、よりハードルの高い共同作業の成否につながるのである。
 次回は、次のステップ「次世代を育む:研究と子育てプラン」について考えてみたい。

若手キャリアプラン検討会
(baby_farms@yahoo.co.jp)


(蛋白質核酸酵素9 月号 Vol.49 (2004) より許可を得て転載)
若手研究者の結婚・子育て(2)

 現代の日本においては、男性は仕事、女性は家事・育児の主要な担い手であるという考え方から、「男女が共同して家庭も仕事も社会参画も」互いに支え合いながら積み上げていくという考え方へと急速に変化しつつある。しかし、たとえば「女性研究者が結婚後、仕事も子育ても両立したい」となると、依然としてハードルは高いままだ。女性を男性に置換して「男性研究者が結婚後、仕事も子育ても両立したい」と言い換えたときの現実感と比較すると、やはり格差が大きい。本稿では、「結婚後も働き輝きたい女性研究者」を応援するべく、知恵を出し合ってみたい。これは個々の努力だけでは済まない課題であり、男性研究者にも同僚としての当事者意識が必要だ。

●男女共同参画の推進
 まず、「男女共同参画」を推進する公的な活動が、30代〜40代の研究者を中心に活発化していることをご存知だろうか。理工系の40学協会(日本生化学会、日本分子生物学会、日本蛋白質科学会、日本細胞生物学会など、オブザーバーを含む)が加盟する「男女共同参画学協会連絡会」(2002年発足)がその中心となっている。文部科学省から予算を得て昨年度実施した「科学技術系専門職の男女共同参画実態調査」の結果が、今年4月に「21世紀の多様化する科学技術研究者の理想像−男女共同参画推進のために」として報告された。これは、男女を問わず各学協会会員約2万人の科学技術系専門職へのアンケート結果を解析したもので、これほど広い分野かつ人数を対象とした調査は世界でも例をみない。ダウンロード可能(http://annex.jsap.or.jp/renrakukai/)なので、若手の皆さん(特に男性の方)には一度目を通していただきたい。これら貴重なデータからわかることは、多くの男性が環境整備によって現状の解決への道が開かれると考えているのに対して、女性側は男性や社会の意識改革までを求めており、現状の社会システムに対する男女の意識に差が存在するということである。

●次世代を育む〜研究と妊娠・出産
 さて、先月号に続き、研究職の妊娠・出産に話題を進めよう。ここでは、妊娠から出産までと出産後の育児にステージを分けて考えていきたい。一般的な内容も含むが、若手研究者(院生も含む)に有用と思われる範疇で記載した。
 産休制度は法律で定められており、産前6週間・産後8週間の休暇が保障されている。一方、院生が妊娠しても制度としての産休はなく、休学するかラボの好意で長短期休暇をもらうか、のいずれかになることが多い。妊娠から出産までの経費は、入院・分娩費用として約40〜50万円だ。妊娠は病気ではないので、大半の検査・分娩が健康保険適用外となるためだが、一部は医療費控除の対象になるので調べてみてほしい。各種一時金[出産育児一時金(30万円)、出産手当金、育児休業給付金、児童手当金など]は、いずれも自分で申請をしないと支給されない場合が多いので忘れずに申請することが大切である。学生の場合はこれらの一時金がないので、そのあたりは大変厳しい。院生結婚はOKでも院生出産を思い止まらせる律速のひとつになっているようだ。
 妊娠中の子供の命は100%母親にかかっている。男性は、この段階での女性の負担の大きさを肝に銘じて欲しい。妊娠出産については、ラボ文化(既婚者の多いラボとそうでないラボ)によって受け止め方の寛容度にだいぶ差がある点も注意が必要だ。妊婦は体調変化も厳しいので、自分の周囲で出産を控えた人がいれば、明日は我が身として(男性もその気持ちで)サポートしてあげよう。
 次回は、育児と研究の両立に話題を進め、とくに「保育所、ベビーシッター、ファミリーサポート制度」といった育児支援システムの利用法について考えてみたい。

若手キャリアプラン検討会
(baby_farms@yahoo.co.jp)


(蛋白質核酸酵素10月号 Vol.49 (2004) より許可を得て転載)
若手研究者の結婚・子育て(3)

 子どもが熱を出した、朝夕の保育園への送り迎え、その他もろもろ…。研究も子育てもパーフェクトにすることなどできない。何より、研究時間と業績が比例しがちな分野では、実験以外のことに時間を費やすだけでマイナスとなりかねない。子育てと研究の微妙な両立。今回は、若手研究者が子育てをする際に直面する問題とその対処方法について考えてみたい。

●誰が子どもを育てるの?
 育児には手間と時間がかかる。自分が仕事をしている間は、誰かが子どもをみていないといけない。では、いったい誰にみてもらうのか。これが共働き夫婦の一番苦労している点であるが、現実的な選択肢となると、身内あるいは育児サービスの利用となるだろう。仕事の質を落としたくないなら、プロ意識をもって利用できるものは全て利用しよう。
 まず、両親や兄弟に子どもを預けたり、子育てを手伝ってもらったりする方法がある。親が遠方に住んでいて日常的な協力を依頼するのがむずかしいという場合でも、緊急時のサポートや相談相手として親がありがたいのは旧来変わらない。
 もう一つの選択肢は地域の育児サービスの利用である。各種育児施設をあげてみると、幼稚園(文部科学省管轄、3歳〜)、保育園(厚生労働省管轄、0歳〜)、託児所、地域のファミリーサポート制度、ベビーシッターなどがある。保育園については、各自治体の保育課(自治会によって部署名は異なる)やホームページで情報が得られることが多い。ゼロ歳保育の有無、特別保育や延長保育の有無、送迎の便、給食・離乳食の扱い(とくにアレルギー食の有無)などに気をつけるとよいだろう。しかしながら、都市部では保育園に入園させるのも大変な状況で、入園待機児童が何万人もおり、都市問題にもなっている。無認可保育園は国や自治体の基準を満たしていない保育園をいう。語感のイメージはあまりよくないが、働く親の味方になってくれる良心的な保育施設も多い。また、学内に保育所を併設している大学もあるので、自分の所属する大学・研究所の状況を調べてみてほしい。
 ベビーシッターは比較的料金が高いので、保育所への送り迎えの代行など、一時的な利用に有力な選択肢のひとつとして認知しておくとよいだろう。家に出向いてもらうサービスなので、育児に対する要望が伝えやすくアレンジが効きやすいことが大きな利点である。また、新しい制度として市町村のファミリーサポート制度もある。共働きの夫婦が安心して仕事と子育てが両立できるよう応援するボランティアシステムで、ベビーシッターと併用できる制度として今後の選択肢となるだろう。
 以上、限られた経済力のなか、これらの制度を活用することで共働き研究者の育児はやりくりされている。これから育児に取り組む若手研究者の参考になれば幸いだ。また、育児休職からの復帰の際の手段としては、任期付職を積極的に利用するという戦略もあるだろう。

●結婚・育児に対して寛容に
 子育てが社会から邪魔者扱いされたら、いったい誰が子供をもとうと思うだろう。働く人・研究する人が普通に子育てをし、才能を発揮できるような社会こそ、真の成熟した社会といえるのではないだろうか。キャリアプランとライフプランは、人生の両輪であり、若手研究者にとって大きな問題である。多様なキャリアプランが派生している昨今は、ライフプランのゆがみを見つめ再設計するよい機会なのではなかろうか。

若手キャリアプラン検討会
(baby_farms@yahoo.co.jp)


今回の記事に対する御意見、御感想等を御記入ください。

あなたの ご職業

研究をなさっている方にお聞きします。
ご専攻は何ですか?

このページに来たのは

よろしければ、下記のフォームに入力ください(匿名でもかまいません)。

お名前
所属(大学、学部、専攻、会社等)
E-mailアドレス
ホームページURL

御意見、上記の個人情報をキュベット誌面、web siteなどで公開してもよろしいですか? No Yes 意見のみ

 

ありがとうございました。

ご意見、ご感想をcuvette@seikawakate.comまでお送りください。(PNEキュベット委員会)
【キュベットTOPページへ戻る】