(蛋白質核酸酵素6月号 Vol.49(2004)より許可を得て転載)
若手研究者向け研究費の問題点

 先日、Science誌から 取材を受けた。総合科学技術会議が、競争的研究資金の多くが50代の研究者に配布されていて、20代、30代に手薄である(30歳以下で0.4%、30歳代前半でも4.6%)という結果を出したが、この結果は若手研究者にどのように受け止められているのか知りたい、というのが先方の取材の目的だった。

 私は「若手はポストドクトラルフェロー(ポスドク)などの職についていることが多く、そもそも研究費と自由に使える立場にいるものが少ない。だから、この数字自体は、若手研究者が独立したポストについていないことを表しているだけなので驚きはない。若手に独立したポストを与えないと、いくら金額を増やしたとしても無意味である」と答えた。

 私の発言はOlder Scientists Win Majority of Funding (Science, 303, 1746, 2004)の中に 引用されたが、この取材を契機に、若手研究者が直面する研究費の問題点について考えてみたい。日本生化学会は昨年、問題改善のための提言を発表した[「研究体制に関する提言」について(生化学, 75, 634-635, 2003);「研究体制に関する提言 その2」(生化学, 75, 1559-1560, 2003)]。これらの提言は生物化学学会連合の「研究体制に関する提言」としてまとめられ、関係者省庁に提出されている。これらの提言の作成には私も関わったので、これらも参考にして、若手研究者への研究費配分をより良いものとするための方法を探ってみたい。

 まず、科研費でいえば、年額500〜1,000万円の基盤研究(B)、および比較的小額の基盤研究(C)の2区分にあたる小額の研究費を、ポスドクや非常勤的な研究者を含む多くの若手研究者に配分するシステムを作ることを提案したい。使い切れない程の研究費を特定の研究者に集中させるより、小額の資金を数多く用意するほうが有効な資金の使い方ではないだろうか。研究費獲得は若手にとって非常に励みになるという声も多い。

 確かに近年、若手研究者向けの研究費は増えている。たとえば2002年度に、日本化学技術振興会は37歳以下向けの研究費を50%増額させ、また特別研究員として4,800人(うち2,100人は大学院生)に研究資金を配分している。それ自体は評価したい。だが、こうした研究費が研究室全体の資金に加えられ、研究費を取得した若手研究者自身が自由に使用できないケースが多いという[詳しくはJapanese system buries the individual researcher(壇 一平太 : Nature, 423, 221, 2003) 参照]。また、ポスドクの所属によっては科研費などに応募できない、COEのポジションが非常勤扱いのために研究費の応募資格を失ってしまった、などという制度的な使いにくさを指摘する声も多い。

 よって、所属や身分の制限を問わず、独立した研究者に科研費を配分すべきである。研究者の実力は、自由にお金を使うことができてはじめて判断することができるのであり、発想の柔軟な若手に「任せてみる」システムを作ることが急務である。

 次に指摘したいのは、若手向け研究費の「その後」のことである。本来ならば若手研究者は研究費を活用し、研究能力を高め、優れた業績をあげたうえでさらなるポジションを得るべきであるが(サミュエル・コールマンはこれを「クレジットサイクル」と呼んでいる)、若手と中堅の中間に位置する研究者への支援策が薄く流動性が乏しい日本の研究システムでは、研究費の支給期間が終了した後の資金にめどが立たず、多くの若手が独立した研究を継続できないでいるといった自体が生じている。若手研究者向けの大型研究費であるさきがけ21は、一部では「先崖」と揶揄されているそうであるが、過度な年齢制限をするのではなく、さまざまな段階の研究者が実力に見合った研究費を取得できるようにすべきである。

 こうしてみると、この問題は若手の研究費だけの問題ではないことに気づく。研究費を含め様々な問題は、機会の門戸開放(年齢や所属を問わず)と、高平滑厳正な選抜評価を実現することで解決するのではないか。

 ここで挙げたような問題が早急に解決され、研究者ひとりひとりの能力が十分発揮されるようなシステムが早急に実現することを願う。

榎木英介
(NPO法人サイエンス・コミュニケーション代表理事)


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