(蛋白質核酸酵素11月号 Vol.49 (2004)より許可を得て転載)


博士の就職難は本当に問題なのか?(1) 

 「博士の就職はむずかしい」といわれています。博士課程を修了した時点で就職先を確
保できていない人が5割近くいるのが現実です。最近、文部科学省も博士支援の一環とし
て、博士を採用するように企業などに呼びかけていくことも考えているとのことです。し
かし、はたしてこの問題は政府が乗り出さなければならないほどの問題なのでしょうか。
案外、博士個々人でなんとかできる程度の問題なのかもしれません。今回の連載(全4回)
では、私が自分自身の就職活動やホームページ「博士の生き方」
http://hakasenoikikata.com/)の運営をとおして考えてきたことを述べていきたいと
思います。


●私の就職活動
 「博士卒、無業」博士課程在学中、これが人生ほぼ順風満帆だった私にとって最大の恐
怖でした。核融合の世界にいた自分にはアカデミアにしか居場所がないと考えていて、そ
の分野の就職難の現実に絶望していました。そんな博士2年の冬、ある先輩から「探せば
職はある、でもみんな探さないんだ」という励ましを受けました。また、どうもアカデミ
ックポジションだけでやっていくのは嫌だと感じていたので、思い切って企業就職という
選択をしました。

 工学系の場合、修士や学部生の就職は学校や指導教官からの推薦が一般的なのですが、
私の場合はそのような手段が使えないこともあり、おもにインターネット就職支援サイト
のリクナビで新卒求人情報を集めて就職活動を行ないました。せっかくの人生を考える機
会ということで、インターンシップに参加したり、面接も、メーカーの研究職だけでなく、
総合商社や金融機関、シンクタンク、コンサルタントなどにも挑戦したりしてみました。
そして、最終的にはやはり研究開発にかかわりたいという気持ちが強く、現在の会社で研
究職に就きました。
 自分の就職活動中においては、博士課程に在籍しているということで年齢や博士は使い
にくいといった偏見による不利な扱いを受けることはありませんでした。その経験から
「博士の就職がむずかしい」というのはいったいどういうことなのだろうと考えるように
なりました。

●博士を取り巻く特殊事情
 私が思うに、どうやら博士には3種類のタイプが存在しているようです。ひとつは、
「放っておいても自力でポストを手に入れることができるタイプ」、「人柄はよいのだけ
れど自分の将来を描けないでいるタイプ」、そして最後が「研究者として以前に人間とし
てどうだろうかというタイプ」です。
 1番目のタイプの人は問題がないのですが、2番目のタイプの人は、アカデミックポスト
という選択肢しか知りませんし、さまざまなうわさから、企業への就職はむずかしいとは
じめからあきらめてしまっているようにも感じます。このような考え方の人が博士には非
常に多く、労働市場に博士があまり流れていかないことが、統計上、博士の民間企業への
就職が少なくなっている原因になっているのではないかと考えています。
 そのため、博士が企業に就職するのはむずかしいといううわさを払拭し、とくに2番目
のタイプの人たちに自ら就職活動に乗り出す意欲をもたせることが、博士の就職難の解消
につながるように感じています。
 現在の労働市場は大きく分けて、新卒採用と中途採用の2種類に分かれます。その枠組
みの中で新卒博士・ポスドクの在学中・任期中の仕事をどのように評価するべきなのか、
企業側での評価の基準が定まっていないように感じます。このことも博士が民間企業への
就職をあきらめるひとつの要因になっているように感じます。新卒博士・ポスドクの仕事
をどのように評価するのがよいのかを明確にしていき、博士のための労働市場を形成して
いくことも大切であると考えています。

●博士は自力で将来を切り開けるのか
 現在、博士のための労働市場は存在していませんが、新卒採用市場、中途採用市場に目
を向け、それらの市場に自身を適応させることによって、民間企業への就職の道は拓けて
きます。次回(2005年1月号、隔月連載)は、新卒採用市場、中途採用市場での就職活動
の仕方について具体的に示し、就職活動を考えている人たちに広い視野での就職活動を呼
びかけていく予定です。


奥井隆雄 (「博士の生き方」運営) 
E-mail:webmaster@@hakasenoikikata.com