(蛋白質核酸酵素3月号 Vol.50 (2005)より許可を得て転載)


博士の就職難は本当に問題なのか?(3)
―博士のための人材市場をつくる― 


 連載第2回(1月号)においては、企業の求人に応募する場合の研究概要・履歴書の書
き方について述べました。しかし、実際に就職活動をするうえで、博士には困難がつきま
といます。そこで今回は、その解決策として、博士のための人材市場について述べます。

●博士にきびしい人材市場
 前回も述べたように、人材市場には新卒向けと中途向けがあります。博士が新卒採用に
トライする場合には、就職活動の時期がネックとなります。すなわち、D2の秋からD3の秋
という、もっとも研究成果があがるべき重要な時期にあたり、就職活動が長期化した場合
には、研究にも大きな支障がでてきます。また、中途採用に応募する場合だとそれよりも
早くなり、今度は実務経験の少なさがネックとなります。

●博士のための人材市場を作ろう
 企業が博士を採用しない理由として、文部科学省「平成14年度・民間企業の研究活動に
関する調査報告」によれば、「博士の能力をうまく生かしきれない」と博士が基礎研究に
しか興味がないと考えていること、そして「わからない」「とくにない」と求人対象とし
て初めから考慮していないこと、があげられています。これは、博士が社会にとって、企
業にとって、どのように役に立つのかが明確でないためだと考えられます。
 博士の価値は、その専門知識にあるのではなく、研究や大学院生活全般において培われ
た経験にあるのだと思います。自分でテーマアップをして苦労をしながら成果を出してい
く能力、そして、教官や後輩を巻き込んで研究を進めていく調整力・統率力といったもの
が、個人差はあるにしろ、博士は身についてきています。このような能力は、研究開発だ
けでなく、企業のさまざまな領域で求められるもので、将来、企業においてリーダーシッ
プを発揮するのに必要なものであると考えます。
 博士のための人材市場が、このような「リーダーシップを担う可能性をもつ人材として
の博士」を広くアピールする場となればと考えています。そして、このような市場が存在
することが、博士という人材を企業にアピールし、大学・学生双方に対し企業への就職を
意識させることにもつながるのではないかと考えます。

●「博士の生き方」の取組み
 筆者が自身の博士課程在籍時を振り返って感じるのは、自分たちが研究を遂行するうえ
でさまざまな技術と社会性を身につけてきているにもかかわらず、企業にとっていかに魅
力的であるかに気づいていないということです。
 このような気持ちを抱いていたところ、協力してくれる人材紹介会社があり、「博士の
生き方」(http://hakasenoikikata.com/)において、「博士のための職業紹介」を始め
ました(注1)。この取組みのなかで筆者は、研究概要・履歴書の書き方をアドバイスす

ることを通し、相談者には自分が人間的にまた研究能力の面で魅力あることに気づいても
らい、自信をもって就職活動ができるようサポートをしています。また、希望があれば、
人材紹介会社も紹介しております。「博士の生き方」が大学・研究機関の窓口となり、人
材紹介会社が企業開拓に励むことで、この試みが博士のための人材市場として大きく広が
ることを期待しています。

 この「博士のための職業紹介」においては、相談者が人材紹介会社を通して就職した場
合、人材紹介会社には受け入れた企業から、紹介手数料として相談者が受け取るであろう
年収の3割相当額が入ります。現在、理工農医で毎年約3500名程度の博士が、学位取得時
点で進路が決まっていません。仮に、このうちの半分が人材紹介会社を介し就職した場合、
約20億円の市場が生まれることとなり、博士のための人材市場の誕生は人材紹介会社に
とっても大きなメリットがあると考えています。そして、これまであまり戦力と考えられ
ていなかった博士を受け入れた日本社会が受ける経済的な恩恵は、その数十倍、数百倍に
もなるのではないかと考えます。

 隔月連載第4回(最終回)の次回(5月号)は、総括として、これまでの連載内容、就職
問題に関するQ&Aを述べたいと思います。


奥井隆雄 (「博士の生き方」運営) 
E-mail:webmaster@@hakasenoikikata.com

(注1)「博士の生き方」では現在、博士のための職業紹介をおこなっておりません。
(キュベット編集部)