(蛋白質核酸酵素4月号 Vol.50 (2005)より許可を得て転載)


新しい技術を受け入れるために求められるもの 
―GM食品のPA活動から―


 最近、バイオ関連機関が遺伝子組み換え(genetically modified ; GM)食品について
のパブリックアクセプタンス(public acceptance ; PA、社会的受容)活動を積極的に推
し進めるようになりつつある。このPA活動は、GM食品など新しい科学技術を社会に浸透さ
せられるかどうかの鍵を握っている。

●懸念の影響とPA活動の重要性
 近年、GM作物が大量に輸入されるようになって、私たちの食生活にGM食品が深く浸透し
つつある。しかし、GM食品に対する消費者の不安は根強く、その研究・開発に大きな影響
を及ぼしている。
 昨年までに、日本たばこ産業や三菱化学など大手企業がGM作物の研究から撤退し、積極
的に研究を行っている公的研究機関でも、あいついで栽培実験が中止された。とくに北海
道では、研究も含めたGM作物の栽培を厳しく制限する条例が今年中にも制定される可能性
が高くなっている。最近では、滋賀県、茨城県、岩手県が試験栽培までを規制するガイド
ラインなどを策定した。また教育現場では、学校給食にGM食品を使用することに保護者な
どから強い反発がある。
 今後、多くの有用な特質から、将来の世界的な食糧危機を救う可能性を持つGM食品が社
会に受け入れられるためには、的確な情報提供やリスクコミュニケーション(リスクに関
する正確な情報を共有しつつ相互に意思疎通を図ること)を行うなどの、PA活動が重要と
なっている。

●政府機関の対応と現実
 GM食品に対する懸念の根本的原因の一つは、その導入時に科学者や政府がきちんと情報
提供をしなかったことがあるといわれ、マスコミや食品業者さえGM食品を正しく理解して
いないことが多い。このような現状から、政府機関では数年前よりPA活動の一環としてGM
食品に関する意見交換会を行っている。しかし、これらは平日の昼間に行われるため、参
加できる人が限られてしまっている。ここでの意見がGM作物・食品に関する法的案件を決
める際に影響するのだが、このやり方では多くの消費者の声を反映したものにはならない
だろう。政府機関の行っているPA活動は一般の消費者を意識しているとはいえない。より
多くの市民がGM食品について知る機会をつくることが必要だ。

●もっと身近な場面からのPA活動
 近年、いくつかのバイオ関連機関では、学校などの教育現場や科学館、保健所など、一
般の市民が集まる場所に出向いてPA活動を行っている。これらが以前の活動と異なるのは、
一方的な説明をするのではなく、消費者の不安にも耳を傾け、ともに考えていくというス
タンスである。GM食品の現状や遺伝子組み換え技術についての解説だけでなく、DNA抽出
実験や形質転換実験なども体験してもらうことが多い。参加者層はさまざまで、GM食品に
ついてよく知らないという人がほとんどである。ただ、この活動には人材が非常に少なく、
効果があるかどうかすぐに結果が出ないため批判も多い。しかし、多くの参加者はGM食品
は危険でないことを理解してくれる。また、各機関などからPA活動を行ってほしいという
要望は確実に増えている。

●社会が新しい技術を受け入れるために
 PA活動はGM食品に限ったものではない。昨年、米国のある研究者が、ナノ粒子を吸い込
んだ動物は肺や脳に損傷を受け、ナノ粒子は細胞核まで侵入する可能性があると公表した
ことから、一部ではナノテクに対する懸念が広まった。米国やEU(欧州連合)では、ナノ
テクに関する政策のひとつとして、リスクコミュニケーションを行うなどの対応を重要視
しだしている。
 このように、社会が新しい技術を受け入れるには、規則・法令を遵守するだけでなく、
信頼度の高い情報の提供やリスクコミュニケーションなどのPA活動が欠かせなくなってき
ている。しかし、その普及には困難な点も多い。いまこそGM食品のPA活動をしっかりして
おくことが、GM食品の発展だけでなく、ナノテクに代表される新たな技術を社会に広める
上でたいへん重要なのである。


木村裕美
E-mail:gmfd_pubassess@@yahoo.co.jp