(蛋白質核酸酵素Vol.50 No.7 (2005年6月号)より許可を得て転載)


学部広報に期待すること


 最近、多くの大学が広報活動に力を入れています。外部向けに大学を紹介する広報の仕
事は、日常、実験に明け暮れている私たちとは縁がないと思うかもしれません。ところが、
私の所属する大学では、数年前から学部レベルで広報室をつくり、活動の一部に大学院生
を参加させようという試みが始まりました。
 「大学広報」と「学部広報」は組織が分かれていて、仕事の目的も少し違います。大学
のイメージアップを狙う大学広報の対象は受験生、企業、学生であり、大学のホームペー
ジでも各々に入学案内や産学連携、奨学金などの事務手続きを載せています。一方で、学
部広報のおもな対象は内部の学生やポスドク、大学院受験生といった狭い範囲の人々です。
自分も大学院生として教官へのインタビューや講演会を手伝う機会があったことから、こ
こでは学生により身近な情報源となる学部広報について考えたことを述べます。

●学部生への広報活動
 学部生への広報活動には、1.事務連絡、2.大学院の入学案内があります。学生生活を支
える奨学金の案内や講義日程の掲示は広報の基本といえるでしょう。2.の大学院案内は大
学院受験を考えている学生と社会人が対象です。入学案内には募集要項や過去問などの事
務的な情報が載っており、リンクをたどれば研究室ホームページで研究内容や業績をすぐ
に見ることができます。ここでさらに、研究室選びを広報がサポートできないか考えてみ
たいと思います。自分が学部生だったときの経験では、研究室を決めるときに重要な「指
導教官はどんな研究者なのか」という情報は、ホームページだけではなかなかわからない
ものです。学生から見れば、研究成果と同時に、研究の過程も教官を知るいい材料ですが、
失敗談を載せる人はまずいないでしょう。教官インタビューでも、研究の苦労や教官自身
の研究哲学を引き出すにはうまい質問をすることが大事です。たとえば、広報によるイン
タビュー形式なら、学生の知りたい研究者の素顔に近づけるはずです。もちろん学生側も、
オープンキャンパスなど直接研究者と話せる機会を利用することが大切です。

●院生とポスドクへの広報活動
 院生やポスドクへの広報には、1.事務連絡、2.プレス・リリースがあります。1.の奨学
金や学術振興会関連の情報は十分役に立ちますし、2.も研究の宣伝だけでなくほかの研究
室の活動に刺激を受ける効果があります。さらにもう一つ、研究者に役立つと思うのが、
3.研究室と研究室をつなぐ機能です。大学の各研究室は、同じ建物内でもよその研究室の
研究内容をよく知らず、専攻が違えばほとんど何も知らないということがあります。実は
先にあげた広報誌のインタビューでは、「専攻横断的な授業や共同研究ができればいい
ね」という話が出ることがあります。なによりインタビュアーである院生の多くが自分の
専攻以外の教官に会いに行っていることが、ヨコの風通しをよくしたいという院生の欲求
のあらわれではないでしょうか。大学全体では規模が大きすぎても、学部単位ならセミ
ナーや学生どうしの交流が可能です。学会のように情報交換できる場を学内につくれば、
意外な共同研究相手がみつかるかもしれません。

●研究と広報のいい関係
 「イメージアップ」という漠然とした期待に対し、実際の広報活動は「誰に」「何を」
「どのように」伝えるか計画性が問われる仕事です。たとえば専攻横断セミナーを開くに
は、授業との時間調整や広い会場の確保が必要です。忙しい大学教官にインタビューの約
束を取り付けるのも簡単ではありません。教官が研究の片手間にかかわるのではなく、事
務と常に連携して動ける広報室を置くほうが研究者の負担も減るでしょう。将来の学部広
報には研究者側のニーズをつかんでセミナーを開いてほしいと思います。研究者側も広報
を面倒な書類仕事ではなく風通しのいい研究環境を作るための方法と考えて、どんな仕事
をしてほしいのか積極的に話す必要があるでしょう。


須賀晶子(東大院・理)
E-mail:ss37192@@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp