(蛋白質核酸酵素Vol.50 No.8 (2005年7月号)より許可を得て転載)


科学コミュニケーションの現場より(1) 
オリジナル企画展「恋愛物語展」で科学を伝える


 科学の面白さ、重要さを社会に伝える取り組みが注目されていますが、これから3回に
わたり「科学コミュニケーションの現場より」というテーマで、日本科学未来館で行なわ
れている、一般の方へ科学の楽しさを伝える取り組みを紹介したいと思います。
 1回目は、企画展による科学コミュニケーションの実例として、現在、未来館で開催中
の特別企画展「恋愛物語展――どうして一人ではいられないの?」を取り上げます。この
企画展は、誰もが「恋愛」からイメージする、わくわくどきどきする気持ちを裏切らない
ようにしながらも、科学的なトピックスを多く取り上げていきます。8月中旬まで開催さ
れ、数万人の来場者を予定しています。(注1)

●企画チームについて
 私は昨年8月から未来館で働き始め、企画チームの一員となりました。長らく研究や研
究関連の仕事に携わってきましたが、一般の方へ科学を伝える科学コミュニケーションの
仕事は今回が初めてであり、戸惑いと何か面白いことになりそうだという期待半々で仕事
を始めました。企画展に限らず、常設展示やイベントの企画は、展示開発室の科学技術ス
ペシャリストとよばれるスタッフを中心に進めます。スペシャリストは、科学的なバック
グラウンドをもつ分野系と、展覧会開催や出版・デザインの経験を持つ手法系からなり、
分野系は4つの科学分野に分かれています。ただし、大きな企画展では分野横断的な企画
チームが組織されますが、恋愛物語展では、生命科学分野系スタッフ2人と、手法系4人
から構成されました。分野系スタッフが、研究資料の収集をしたり、研究者と直接コンタ
クトしてリサーチを行い、ストーリー展開や、シンポジウム・実験教室の内容を提案しま
す。会場や展示デザインは手法系スタッフを中心に進められます。

●なぜ「恋愛」なのか
 最近、市民公開シンポジウムや大学や研究所の一般公開などで、研究者自身が一般の人
たちへ科学を語る機会が増えています。しかし、先端科学を講演だけで理解してもらうこ
とはとてもむずかしいことです。今回の企画展は、誰もが反応する「恋愛」を切り口に、
これまで科学に馴染みのない若い女性やカップルもターゲットとして、企画展を介して科
学を伝えます。科学を前面に出してもあまり興味がわかない層にも、これをきっかけに科
学へ興味をもってもらうことを期待しています。若い人の感性に合わせて、会場内はXとY
の刺繍をした半透明の白いカーテンに包まれ、照明を抑え落ち着きのある空間になってい
ます。

●「恋愛物語展」と科学コミュニケーション
 「恋愛物語展」は、文字どおり物語仕立てで、来場者が1つ1つの章を読み進めながら
楽しめるように工夫しました。全体の構成は、「第1章 恋する生命体」「第2章 恋す
るホモサピエンス」「第3章 恋する人の物語」の3つからなります。
 第1章では、地球上に生物が生まれ数十億年も生命を受け継いできた生物たちの恋愛を
語り、物語の流れのなかで、減数分裂や性決定遺伝子、ゲノムインプリンティングなどの
科学トピックスを取り上げ、エピローグのクローンマウスや単為発生マウスの話題につな
げています。最新の研究を含むため、会場では理科系のバックグラウンドを持つインター
プリター(展示説明員)が来場者の質問に答えるようにしています。恋愛という切り口で
科学を語ることで、来場者は期せずして先端の生命科学を垣間見ることになります。
 会場内の特設バーラウンジでは、研究者のトークショーも予定しています。新しいタイ
プの科学コミュニケーションとして、参加者とじかに語らう場になることを願っています。

次回は、実験を通した科学コミュニケーションの取り組みを紹介いたします。


橋本裕子(日本科学未来館 展示開発室) 
E-mail:y-hashimoto@@miraikan.jst.go.jp
日本科学未来館ホームページ:http://www.miraikan.jst.go.jp

(注1)2005年現在の予定です。(キュベット編集部注)