(蛋白質核酸酵素Vol.50 No.9 (2005年8月号)より許可を得て転載)


科学コミュニケーションの現場より(2) 
実験で科学を伝える


 読者の皆様、本日の実験結果はいかがだったでしょうか? 変わったことや気になる
データが出ましたか? どんな実験結果であれ結果は結果ですから、そこから何を見いだ
すかで、ノーベル賞級の研究になるかどうかが決まるといっても過言ではありません。し
かし、一流誌に掲載されることや社会に役立つといったことが、研究の良し悪しを決める
わけでもなく、いかに新しい考え方、あるいはオリジナルのコンセプトをうちだし、異な
る視点とアプローチをもって実行するかが鍵であり、それが後世に残る光る仕事になるの
です。研究は、なぜだろうという疑問から仮説を立て、証明するにはどうすればいいのか
を考えるところに面白みが凝縮しています。研究の過程である実験に忙殺され、考えるこ
とをおろそかにしていませんか? 前置きが長くなりましたが、皆さまがライフワークと
して取り組む実験を通して、一般の方へ科学を伝える(科学コミュニケーション)とはど
ういうことかを考えてみたいと思います。

 一般の方へ科学を伝えるときに考えなければならないのは、いかに教えるかではなく、
受け手が何を得るのかということです。そもそも科学とは何かといった原点まで戻り、そ
れを伝えるにはどうすればよいのかを考えます。内容の理解は次の話で、要は科学的な思
考にいかにして触れてもらうかにつきます。同一条件下では誰がやっても同じ結果となる
原理原則にもとづいた科学という言語は、人類どころか宇宙人とも共通のものであり、そ
れを知恵として共有すべきものだからです。その科学的思考にふれるのに適しているのが、
実験をすることです。ものごとを教えたり伝えたりするには、さまざまなテクニックや手
法がありますが、百聞は一見にしかず、実験を自ら体験することは、科学的に考えるとい
う新しい視点を提供するのにきわめて有効な手段です。

 では、体験してもらうにはどうすればいいのでしょうか。実験というと、ペットボトル
ロケットや静電気で物体が浮いたりするような、見た目の不思議さや派手さのショー仕立
てのものが思い浮かびます。それはそれで子供たちには人気がありますが、びっくり手品
の種明かしが物理法則だったようなもので、科学的思想を追体験する実験とはちょっと違
います。自分の手で実験をし、対象群をよく観察し、失敗を含めて結果について考えるこ
とが大事で、そのような場や機会をつくらなくてはなりません。

 そういう意味で日本科学未来館では、特別に実験工房という実験室を備え、実験教室を
定期的に開催しています。実験教室では、体験者の対象設定が肝心です。小学生を含める
のか、中高生限定なのか、あるいはバイオビジネスにかかわろうとする社会人対象なのか、
それとも一般向けなのかによって、内容の設定も大きく変わってきます。また、時間もと
ても大きなファクターです。2日間かかる遺伝子組み換え実験にしても、大学などの一般
公開日の1日という限られた時間だけではできません。料理教室のようにオーブンに入れ
たとたんに出来上がりの実験形式のものは、失敗はありませんが興味半減で、伝わるもの
も伝わらなくなってしまいます。そして一般を対象に実験を行うということは、安全につ
いても十分注意しなくてはなりません。触るなと言っても触る小学生に対して、DNAの抽
出にフェノールを使うことは、やめておいたほうが無難です。危険だからといって包丁を
使わせないわけではなく、危険は危険としてしっかり指導するには、人員を配置して練ら
れたプログラムで行うことが肝心です。また、生命科学の実験では倫理的な面も考慮しな
ければなりません。結果から親子関係が判定されてしまうようなものは容易にはできない
のです。そういったことを考慮に入れ、未来館ではプログラムを練り、一般向けに無細胞
系蛋白質合成系でGFPを合成する実験や、in  situハイブリダイゼーションで遺伝子の発
現を観察する実験教室を開催しています。一度のぞいてみてはいかがでしょうか。私とし
てはこれから科学を伝えるための実験を考えてみたいところです。

 次回は、少人数での双方向のトークイベントなどを通した科学コミュニケーションの取
り組みを紹介いたします。


菅原剛彦(日本科学未来館 展示開発室)
E-mail:t-sugawara@@miraikan.jst.go.jp
日本科学未来館ホームページ:http://www.miraikan.jst.go.jp