(蛋白質核酸酵素Vol.51 No.5 (2006年5月号)より許可を得て転載)


日本の若い研究者教育の抜本的改善点(3)
学習システムの改善


 前回、前々回と教育における大学院生のありかたについて回顧録調に書いてきたが、今
回は少し角度を変えて、学生の教育に対する姿勢について意見し、その解決策の例を示し
たい。
 昨今、理科離れ、学力低下が叫ばれて久しい。筆者は、奈良女子大学附属中等教育学校
(中高6年一貫教育校)の校長をしており、この問題の矢面にいる。
 30年前に比べて現在では、教科書が数倍に膨れ上がっており、学生はその内容を学習す
るのに四苦八苦しているようである。さらに、理系・文系として教育されてきたので、
オールラウンドな基礎力が欠如している。よって膨大な現象の理解を要求される生物系の
内容を消化できないでいるのであろう。教える方の教授陣も過酷である。30年前と同じ時
間数で、数倍の内容を教えねばならないからである。授業が「百科辞典を読むがごとし」
となってしまうのはやむをえない状態である。文字を追っているだけで、どの部分がより
重要なのか、つまり、何が授業のポイントであるのかがわからないままになっている感が
ある。
 さらに問題なのは、学生にも教授陣にも時間的余裕がないことである。学生はゲームや
アルバイト三昧で、日々の授業の復習などは試験前までしない(昔の学生も一緒かな?)。
教授陣はというと、学内外の会議、学会や研究会への参加、そのほか山のような仕事を抱
えており、さらに、小講座制から大講座制へと移行しても小講座制のころのようにスタッ
フがたくさん揃っているときと同じ雑用をこなさねばならず、十分に講義の準備ができず
にいる。また、国立大学法人化にともなって研究費が激減しており、これが教員のやる気
を喪失させることを助長している。このようなことで満足のいく教育が本当にできている
のであろうか。
 ここで取り上げる教育とは、研究者の育成をめざすものである。そのためには、百科辞
典を頭の中にたたきこむのではなく、「なぜ?」という疑問を持ち、それに答えるために
勉学する心(姿勢)をもたせることが必要である。「教科書に書かれていることが正し
い」式の初等教育・中等教育をうけてきた新入生をそのまま育てては、教科書至上主義か
ら抜けきらないで終わってしまう。できるだけ早い時期にこれを脱皮させねばならない。
旧制高等学校や今は廃止された教養部などは、脱皮を促す意味で有益であった。将来ノー
ベル賞を目指すためには、教科書を書き換えるほどの研究成果が要求されるが、これはど
れほど自由な発想ができる人材を育成できるかにかかっている。
 それでは、どのような解決策があるのだろうか。筆者の所属する大学では、問題の発見
につながる、いわゆる「ここがこの分野の味噌である」という講義に時間を割きたいので、
背景になる知識を詰め込む式のことはe-Learningで行うよう24時間学習システムを設置し
ている。これは、インターネットによる学習システムである。授業では説明できない事項
の解説や授業の復習ができるように講義ノートをPower Point形式で貼りつけ、学生はこ
れを随時閲覧できるようになっている。質疑応答用にメールや掲示板もあり、オフィスア
ワーを設定できる。用語集、模擬試験、本試験などもそろっている。学生は、アルバイト
から帰宅後でもインターネットでメールをチェックしながら復習できるし、教授陣は出張
先でも学生のレポートや質問に対応できる。このシステムの導入後、学生の基礎力は飛躍
的に上昇し、講義では百科辞典を板書するような授業をしなくてもよくなった。しかし、
インターネットを自宅でできない(しない)学生にとってはこのシステムは無力である。
また、パソコンを使えない教授陣にとっても役に立たないシステムではある。
 筆者の大学では、パソコン設備を充実させ、教材作成に対する補助員の派遣なども行っ
ている。e-Learningは万能ではないが、教育についての考え方を変えるよい機会ではある。
おのおのの教育機関の目的にあった有効な活用法を見出し、人材育成に役立ててはいかが
だろうか。

植野洋志(奈良女子大学生活環境学部)
E-mail:hueno@@cc.nara-wu.ac.jp