(蛋白質核酸酵素Vol.51 No.7(2006年6月号)より許可を得て転載)


研究室の選び方

 そろそろ夏の院試シーズンにむけて、学生が大学院の研究室を訪問する時期がはじまる
ころだ。筆者は研究室を訪れる学生の相手をしながらいろいろな問い合わせに答えてきた
が、よくされる質問の中に、「研究室をどうやって決めたらよいか、よくわからない」と
いうものがある。研究室を決める基準は人それぞれだと思うが、そのひとつを紹介してみ
たい。
 大学院で所属する研究室を選ぶにあたって、最低限、満たさなければならないと筆者が
考える基準は、「ほぼすべての院生(博士課程は必須、できれば修士課程も)が査読つき
の論文誌に第一著者で論文を載せている」というものである。この基準を満たしている研
究室かどうかを調べるには、研究室のWebサイトの業績集、または、Pubmed経由でその研
究室から出された論文を検索し、第一著者が院生になっているかどうかを確認すればよい。
 では、なぜこのような基準を紹介するのか。それは、この基準を満たしている研究室な
ら、院生が研究を進めて論文としてまとめられる最低限の環境はそろっていると考えられ
るし、また、論文を出すために必要な教育も受けることができる可能性が高いからである。
別の表現をするならば、院生を募集している研究室のなかには、研究を進めるような環境
が整っているとはお世辞にも言いがたいハズレ研究室があり、そのような研究室は避けな
ければならないからである。
 「自分の興味ある研究テーマで研究室を選ぶべきではないのか」「業績が出せるかどう
かで研究室を選ぶのは即物的ではないか」との意見が出そうだが、研究テーマだけで研究
室を選んでしまうと、前述のハズレ研究室を選んで大学院生活を台無しにしてしまう可能
性が大きくなってしまう。そのため筆者は、研究テーマの面白さで研究室を選ぶことは二
の次であると考えている。もちろん、研究テーマが自分の興味と合致し、かつ、業績を出
せそうな研究室があったらそこにいくのがベストである。
 ここでいうハズレ研究室とは、院生を引き込むために客寄せ用の面白そうな研究テーマ
を掲げ、実際には論文になりそうもないテーマを無理やり与える研究室、あるいは、アカ
デミックハラスメントやパワーハラスメントが普段から横行する研究室などをさす。残念
なことに、このような院生の墓場といえる研究室は確実に存在する。どんなに優秀な院生
でも研究を進めるのがむずかしい研究室に所属してしまえば、大学院修了のための条件を
クリアするのは非常にむずかしいのではないか。実際、そのような研究室に所属してしま
ったために業績を出せず、中退を余儀なくされた、あるいはオーバードクターを繰り返す
羽目になってしまった同級生を筆者も何人か知っている。その院生たちは能力的にはほか
の研究室の院生に劣っているようにはみえなかったため、まともな研究室に所属していれ
ば、ちゃんと学位を取得し、それなりの業績を出すことができた可能性は十分にあったわ
けで、本人たちもさぞ無念であったことであろう。ハズレ研究室では院生が論文を書いて
いることが少ないので、研究室の業績集と研究室メンバーを照らし合わせてみて、とくに
博士課程の学生が論文を書いているかどうかを確認するとよい。
 もし、興味がある分野に業績ある研究室がなかった場合は、とりあえず似たようなテー
マで業績を出している研究室に行き、業績をある程度出してポスドクになってから自分が
興味あるテーマに移っていくことを勧めている。
 今回は、ハズレくじを引かないための指針として、業績から所属先の研究室を選ぶ、と
いう選択基準についてコメントしてみた。研究室を選ぶ基準はほかにもいろいろあるだろ
うが、最低限、研究を進められる環境が整っている研究室を選ぶためにも、今回取り上げ
た基準を研究室選択の前に考慮してほしいと願うしだいである。


吉川忠明 (東京在住・大学院生)
E-mail:vefetgh@@hotmail.co.jp