(蛋白質核酸酵素Vol.51 No.9 (2006年8月号)より許可を得て転載)


あなたの研究の意義は?

 研究を進めていると、「あなたの研究は何がすごいのですか?」と質問される場面があ
る。そんなときに、自分の研究についてうまく説明でき、専門外のかたにも研究の意義を
理解してもらえると、仕事を続けてきてよかった、とうれしくなる。今回、研究の意義に
ついて思うところがあるので述べてみたい。
 一般に、研究は応用研究と基礎研究の2つのカテゴリーに分類されることが多い。筆者
は、その定義を次のようにしている。すなわち、応用研究とは、製薬やバイオテクノロ
ジーなどに応用され産業の振興に役立つ研究であり、基礎研究とは、短期的には産業の発
展には寄与しないが長期的には新しい技術の種になる研究、あるいは、人々の知的好奇心
を満足させるエンターテイメントとして機能する研究としている。言い換えれば、応用で
も基礎でも、なんらかの形で社会に貢献している必要があると考えている。ここで「社会
に貢献」という言葉を使ったのは、大学や独立行政法人での研究予算の大部分は国民の税
金から捻出されているからだ。ただでさえ赤字の国家予算を一研究室で年間何百万から何
億円も使うからには、なんらかの形でその成果が社会に還元されなければ、費用を払う国
民としては納得がいかないのは当然のことだろう。
 ところが、この研究の条件を満たさずに仕事をしている方々がいるのである。以前、あ
る研究者が自身の研究内容について説明してくれたのだが、何がおもしろいのかさっぱり
わからなかったことがあった。たとえるなら、「オタクから超マニアックなうんちくをな
がながと聞かされ、話についていけずに唖然としている」という場面である。そこで筆者
は「この研究の意義をわかりやすく教えてください」と質問してみた。すると「どんな意
義があるかわからないから研究をする」「意義については実験結果が出てから考える」と
いう答えが返ってきて、あきれたことがある。
 「どんな意義があるかわからないから」というのは研究を進める動機として不適切であ
ろう。なぜなら、意義があるのかどうか不明な現象は世の中に山ほどあるので、とくにこ
の研究に予算を割く必要性を感じないからである。また、結果が出てから研究の意義を考
えているようではその本質をとらえることはむずかしいだろう。研究の意義を満たすため
にはどのような結果が出ればいいかという予想があるから、結果から意味のある解釈をひ
き出せるのだと思う。他人と違う研究をしてさえいれば独創性があると評価してもらえる
と思ったら大間違いである。どうやらこの人は税金を使って自分のマニアックな趣味を追
求しているらしい。
 この場合ほどひどくはなくても、はたして意義があるのかどうか怪しい二番煎じや落穂
拾い的な研究を進めている、あるいは、評価が高いのは同じような研究テーマをもつ研究
者のあいだだけ、という場合は結構あるのではないだろうか。
 研究者、とくに高い地位にいる人や多くの予算を得ている人は、自分の研究が社会に対
してどのように貢献しているかの説明責任を果たさなくてはならないだろう。応用研究で
あれ基礎研究であれ、その意義について社会からの理解が得られないようでは、税金を使
って遊んでいると非難されても仕方がない。近年、科学コミュニケーションが注目をあび
ているのも、研究の意義を社会にわかりやすく説明する必要性が高くなっていることの現
われであろう。先日、わが国の科学技術予算を5カ年計画で増やすというニュースが流れ
たが、このせっかく増えた予算が「個人の趣味の追求」に使われないことを祈る。


吉川忠明 (東京在住・大学院生)
E-mail:vefetgh@@hotmail.co.jp