蛋白質核酸酵素 Vol.51 No.13(2006)1911より許可を得て転載


大学院生,科学技術コミュニケーションを学ぶ(3)
北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット


 北海道大学のプログラム,科学技術コミュニケーター養成ユニットの略称は,"CoSTEP"
(communicators in science and technology educational program)である.本プログ
ラムの理念はこの略称"CoSTEP=ともに歩む"が端的に示しているだろう.CoSTEPはほかの
プログラムの先陣を切って,第1期が2005年10月から2006年3月までという怒涛のスケジ
ュールではじまった.本稿では,第1期選科生として受講した筆者の個人的な体験を交え
て,CoSTEPの特徴を紹介したい.

 筆者がCoSTEPに入ったのは,長年の疑問を解くきっかけを得ることができるのではない
か,という期待からである.学会発表や非常勤講師の仕事などで,自分のプレゼンテーシ
ョン技術の未熟さを痛感してきた.いかにして聞き手の興味をひくか? 知識を与えるの
ではなく,知識を得るための方法論を身につけてもらうにはどうすればよいのか?なぜ生
物学が知的娯楽として成立していないのか? そして,本業そっちのけで受講を決意した
のである.第1期CoSTEPには,さまざまな目的をもった43名(本科生10名,選科生33名)
が参じた.北海道大学の大学院生と研究生が半数以上を占めたが,会社員,主婦,翻訳家
や文筆家の方々も参加していた.このような多様な背景をもつ人々との交流は非常に刺激
的であり,自分の興味の背景と視界の狭さを再認識するとともに,多様な人々と協働する
ことが求められた.受講生間において,すでにコミュニケーション実習ははじまっていた
のである.
 選科生である筆者は,講義1科目,演習1科目,実習1科目を選択した.演習では,科学
記事の読み解きや作成だけではなく,ワークショップのデザイン,発声方法までを学んだ.
最終的には,クライアントからの依頼で遺伝子親換え作物条例に関するプレゼンテーショ
ンを作成するという設定のもと,グループで作業を行なった.実習では,Webページ
「さっぽろサイエンス観光マップ」を制作し,記事作成のために企業などへの取材も行な
った.このように,CoSTEPのカリキュラムは実践をとおして学ぶ点に大きな特色がある。
 しかし,半期ということもあるが,内容については入門編といったところだった.受講
生としては,CoSTEPで学んだことや人脈をきっかけに,さらに学んでいくことが必要だと
強く感じた.そして,この自主的な活動こそが科学技術コミュニケーション活動を根づか
せ,大学における科学技術コミュニケーション教育を真に意味あるものとするだろう.
 その動きはすでにはじまっている.CoSTEP修了生などによる北大病院の院内学級への出
前授業や,サイエンスカフェ"ペンギンカフェ"の運営,また,書籍の出版企画も進行して
いる.さらに,中学生から大学院生までの60名ほどが参加している"CoSTEP応援団"は,ボ
ランティアとしてCoSTEPの活動の支援などを行ない,独自に"Ricafe"というサイエ
ンスカフェも立ち上げた.また,"科学技術コミュニケーションフォーラム"という組織も
つくられ,この夏にはJTBとの協同による"楽しくわかりやすい科学教室"を開催した.
筆者もこれに参加し,大学や研究者のもつ"商品"としての魅力を再認識することができた.
また,個人としては,非常勤先の大学で討論を交えたワークショップ形式の実験をデザイ
ン・実践し,学生のよい反応を得ている.

 筆者自身,今後は科学技術コミュニケーションにかかわる仕事がしたいと考えている.
しかし,科学技術コミュニケーション教育の分野がバブルともいえるほどの活況を呈して
いるのとは裏腹に,職業としては未開の分野だ.研究者のアウトリーチはあたりまえ,と
いうのは非常に結構だが,なんのバックアップもなければ研究者の負担が増えるだけにな
ってしまうだろう.大学や研究室に専門のコミュニケーターがほしい,という方は筆者ま
でぜひご一報を.

 次回は,早稲田大学の"科学技術ジャーナリスト養成プログラム"です.

川本思心(北海道大学大学院理学研究科博士課程3年)
E-mail:ssn@@bio.sci.hokudai.ac.jp