蛋白質核酸酵素 Vol.52 No.1(2007〉99より許可を得て転載


大学院生,科学技術コミュニケーションを学ぶ(5)
大阪大学科学技術コミュニケーションデザイン・プロジェクト


 大阪大学コミュニケーションデザイン・センターは,2005年度から新しく設立された多
分野からなる組織である.このセンターの狙いは,専門知識をもつ者ともたない者,利害
や立場の異なる人々のあいだで,双方向コミュニケーション回路を構想・設計するという
ものだ.筆者は普段から科学コミュニケーションに興味があったので,"科学技術コミュ
ニケーションの理論と実践"という集中講義を受講することにした.

 「本演習は,"高レベル放射性廃棄物の最終処分"を題材にして,科学技術を取り巻く諸
問題のフレーミングについて学ぶと同時に,研究の細分化により生じている専門家間のコ
ミュニケーションの困難さを実感することを目的としています」."高レベル放射性廃棄
物",筆者には聞きなれない言葉であった.正直,生命科学関連の内容を期待していたの
で,残念な気持ちと討論に参加できるのか不安な気持ちを抱いたが,メールで同時に知ら
された資源エネルギー庁放射性廃棄物のホームページを読み,事前知識をつけ本番に臨ん
だ.
 この講義の特色は全学部からの受講生がいるという点であり,たとえば,理論物理や哲
学を学んでいる者など,多様な背景をもつ大学院生が受講していた.原子力を専門にして
いる大学院生はいなかった.
 最初に講義を聞いたあと,受講者は8人程度のグループに分かれ,各人が司会や書記,
まとめ役といった役割を担当してグループごとに討論を行なった.このような形式の討論
を初めて経験する参加者もおり,手探りで議論を進めていくといった感じであったが,グ
ループのメンバーが互いをフォローしあい,短期間にもかかわらず妙な連帯感をもつこと
ができた.
 筆者が抱いていた一抹の不安をよそに,初日から非常に活発な議論が交わされた.皆,
専門以外のことにもかかわらず,事前の予習や当日の講義を聴き,自分なりの意見をしっ
かりともって議論に臨んでいた.
 ここで感じられた興味深いことは,専門が異なる者どうしのあいだでは議論の進め方が
かなり異なるという点であった.たとえば,端的に論点のみを述べて論理的かつ合理的に
議論を進める者,また,概念から自分の意見を述べて思考過程を楽しむように議論する者.
筆者自身は偏った断片的な知識しかもち合わせていなかったため,自分の意見に固執せず
客観的に議論を吟味し,それぞれの意見を多面的にとらえようと思っていたものの,実際,
討論になるとついつい熱くなり,視野が狭くなってしまっていた.この点は,あらためて,
コミュニケーションの際の相手とのキャッチボールのむずかしさを感じさせられた.
 最終的に議論自体はうまくひとつにまとまった,というわけではない.しかし,先に述
べた授業の目的は達せられたと思う.個人的には,このような講義は大学院生だけでなく,
大学生,一般の人たちや高校生なども交えて行なわれることを期待したい.

 科学技術コミュニケーションの重要性がさけばれはじめた昨今,サイエンスカフェなど
の多くのイベントが国をあげて全国で開催されるようになった.これらの取り組みは大切
であり,今後ともぜひ続けていくべきだと思う.しかし,一般の専門知識をもたない人た
ちは,いったいどこまでそのような取り組みを認識し興味をもっているのだろうか.コミ
ュニケーションを続けていくのにおいて大切なことは,あくまでも自発的に行なわれるこ
とだと思う.このセンターの狙いである,"専門知識をもつ者ともたない者や,利害や立
場の異なる人々のあいだで,双方向コミュニケーション回路を構想・設計する"を達成す
るには,より根本的・初歩的な問題から解決していく必要があると思う.筆者自身,その
間題がいったいなにか,また,問題に対する解決策はなにか,などはまだ模索中であるが,
今後とも自分の専門分野をしっかりと確立しつつ,なにかしらの形でこれらの取り組みに
かかわりをもちたいと思っている.


橋本興人(大阪大学大学院理学研究科博士1年)
E−mail:okito_hashimoto@@hotmail.com