蛋白質核酸酵素 Vol.52 No.2(2007)195より許可を得て転載


研究者の任期制

 かつて,任期制研究者といえばボスドクがほとんどであったが,近年は,21世紀COE
プログラムなどを代表とする,期限つきのプロジェクトにあてられた研究資金によって雇
われた特任教員が増加している.任期制には,定期的に研究者の業績を見直し,より評価
の高い人材を優先することにより,有望な研究活動を重点的に支援できるというメリット
がある.よい職を得るための競争のなかに身を置いて切瑳琢磨することにより,世界にお
けるわが国の研究の進展速度を上げる効果が期待できるだろう.これに対して,研究者に
多大なプレッシャーがかかるという強いマイナス面もある.また,少人数のグループが限
られた任期のなかで仕事をまとめるためには,どうしても"安全圏"をねらった仕事を優先
せざるをえず,独創性のある仕事が発展しにくくなるという点もあげられる.物事には必
ずメリット・デメリットが含まれるのは当然であるが,重要なことは,この任期制の拡大
という新たな試みを,いかにしてデメリットを最小限に抑えたうえで,メリットを最大限
にひき出すように発展させていくか,ということであろう.本稿ではこの点について,筆
者が所属する研究科のCOEを例にあげつつ,問題提起をしてみたい.

 内輪によるひいき目かもしれないが,当COEは全体としてレベルが高いように思える.
実際,ランクの高い論文を数多く世界へと発信しているが,これに対しては批判的な見方
もある.ある超有名研究室に所属する特任助教授は,COEに参加する前から同じ研究室
に所属しているが,彼について"ビッグラボの優秀な若手を同じテーマのまま昇進させた
のだから,結果が出て当然だ"という意見がある.たしかに,過去から積み上げたテーマ
を続ければ限られた任期のなかでも高い業績をあげやすい.とはいえ,よい研究環境がな
ければ結果は出せないわけであり,最終的に世界に認められるような結果を提示したのだ
から,これは"結果主義"に合致しているといえよう.それどころか,任期制の問題点であ
る"限られた任期のなかでは大きな仕事をやりにくい"というデメリットをうまく抑えたひ
とつの成功例ともいえるのではないだろうか.

 別の特任助教授は,科学技術振興機構の任期制研究代表者から,兼任を含めてCOEに
参加しているが,当時から現在に至るまで自分の論文は発表していない.一方,彼の研究
室の特任助手は,いわゆる3大誌(Cell,Nature,Science)の姉妹誌を含む数報の論文を
発表しているが,当人の能力とは無関係の理由で配置換えの対象となった.結果主義によ
らないこのような問題は当COEにかぎったことではなく,水面下で数多く起こっている
と思われるが,任期制のメリットである"結果を出せる人を優先する"という点から大きく
はずれた人事であり批判も多い.

 先に述べたように,任期制を大きく拡大するという試みが遂行されるためには,その試
みが適切に機能する環境を整える努力が必要不可欠である.上記の2つの例において,前
者はうまく機能した成功例であるが,後者は失敗例といえよう.これは単なる一例にすぎ
ないが,このような任期制の光と影に関する話は,任期制を取り入れた全国各地の研究機
関で聞けるのではないだろうか.重要なことは,現在の任期制の成功例と反省点をしっか
りと把握し,それに基づいて,研究者を正しく評価できる信頼性の高いシステム構築を重
ねることであろう.任期制の"結果を重視し,研究者を数年ごとに一新する"という長所は,
非常に冷酷な制度でもあり,研究者にとっては両刃の剣である.未来の担い手である若手
研究者を生かすも殺すも,さらには,彼らが所属する研究機関の存亡すら,任期制の基本
システムによるところが大きい.優秀な若手研究者の可能性を最大限にひき出すためにも,
大きく貢献しうるシステムが試みどおり機能するよう監視する慎重なシステムづくりが急
務であるだろうと考える.

ペンネーム 鴨川のカモ
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