蛋白質核酸酵素 Vol.52 No.4(2007)395より許可を得て転載


研究者がブログを書く意義と効能  ―実践編―

 前回は準備編として,筆者の経験を中心に,ブログを書くために必要な準備や継続のコ
ツを書いた.今回は実践編として,実際に書きはじめて気づいた点,ブログを書くことで
うけたフィードバック,そして,ブログのもつ潜在性について述べたい.


■ブログの継績を通して得られたもの
 ブログをはじめてしばらくのあいだは,ブログを書いていることを教えた知り合いが時
折コメントを書いてくれる程度で,ほとんど反応はなかった.前回紹介したように,筆者
の場合は昆虫学に関連した論文紹介をメインにしている.そこで,ある程度の数の紹介記
事を書いた時点で,アクセス数の多い生物関連のWebサイトに書き込みを行ない宣伝に努
めた結果,ブログヘのアクセス数は急増した.アクセス数の一般的な増加法については,
それらが紹介されているWebサイトがあるので参考にされたい.
 アクセス数の増加に伴って,昆虫学にたずさわる研究者はもちろんのこと,異分野の研
究者や一般の人からもメールやコメントをもらうようになった.紹介した論文に対しさま
ざまな視点からなされる議論は,コミュニケーションツールとしてのブログの醍醐味であ
ると思う.また,筆者の場合,ブログ執筆に対するそのほかのフィードバックとして,書
評・コラムのような短文の執筆,昆虫学の普及に対する表彰,書籍の執筆依頼などがあっ
た.これらのフィードバックはブログを書いていなければ経験しえなかったものであり,
ブログ更新をつづける原動力となっている.
 さらに,ブログ上での論文紹介を日常化することにより,自身の生物学に対する知見を
深めることができた.それまでももちろん論文は読んでいたが,英語で書かれた論文を読
んでその内容を“理解する”のと,それを他人にわかるよう日本語で“説明する”のとで
は,必要な労力がまったく異なる.ブログ執筆は“説明する”ことのトレーニングにもな
ったし,論文の内容をより深く理解できるようにもなった.また,紹介した論文はキー
ワード検索が可能になっているため,データベースとしても有用である.

■ブログのもつ潜在性
 ブログを書くことにはある程度の労力がかかる.また,場合によっては不適切な書き込
みによりトラブルになることもあるだろう.それでもブログを書きつづけるのは,それに
勝る喜びがあるからにほかならない.学術分野は細分化が進む一方,汎用技術の進歩によ
って異なる分野間の交流がブレークスルーになることも多くなっていくだろう.実際に,
ブログを介して共同研究がはじまる例も日にしたし,筆者自身,これからそのような機会
があれば積極的に生かしていきたいと考えている.個人の情報発信ツールとしてのブログ
に対する注目は現在も高まっているが,じつはブログが注目されはじめてからの時間は長
くなく,筆者のブログもはじめてからまだ1年半しか経過していない.筆者はそのあいだ,
300編程度の論文を紹介してきたが,5年,10年とこれを継続していけば,その情報量はば
かにできないものになるだろう.
 筆者は,研究にたずさわる人々が自分の研究分野について日本語で語る,巨大で長期的
な場の形成を夢みている.最近になって,日本人が母国語たる日本語で思考することの意
義・重要性が多方面から主張されている(たとえば,『国家の品格』藤原正彦,新潮社,
2005)が,筆者はそのような考えに完全に同意するものであり,わが国における研究の独
自性は,自らの国の言語をその源のひとつにするべきだと考えている.また,異分野間の
交流においても,日本語で書かれた研究紹介はその敷居を低くするだろう.個人が日本語
で思考した内容を書きつづり,情報発信し,語り合う.ブログでなくともそのような場は
つくれると思うし,のちにほかの形式に置き換わることもあるだろう.しかし現時点では,
上述したような情報発信・情報交流の場としてブログは,即時性,開放性の面でもっとも
適していると考える.

 これを読んでブログを書きはじめ,長期的に継続してくれる研究者がひとりでもいれば,
この文章の意義はそれだけで大きなものになる.


岩田健一(農業生物資源研究所)
E−mail:g-hop@@mail.goo.ne.jp