蛋白質核酸酵素 Vol.52 No.7(2007)831 より許可を得て転載


博士後期課程での進路変更体験談

 大学院博士後期課程に進学する際(あるいは,修士課程から博士課程に進学する際)に
進路変更を考えている人は少なくないと思う.確かに,博士後期課程から進路を変更すれ
ば,博士前期課程で身につけた知識により,少し周りがみえるようになった状態で自分の
やりたい研究を選ぶことができる.しかし,内部進学の人に比べて3年のビハインドを背
負うというデメリットは覚悟しなければならない.筆者の個人的な意見ではあるが,よほ
どの理由がないかぎり,博士後期課程からの進路変更はすべきでないだろう.ビハインド
がある状況で成果を出すのはむずかしいし,学位をとってさえしまえば自分のやりたい研
究ができる場合も多いからである.ここでは,実際に博士後期課程で進路を変更した筆者
の体験を述べたいと思う.

 筆者はもともと,生化学の研究室でウェットな実験をしていた.しかし,博士前期課程
2年の春,研究テーマを決める段になって,当時のボスからバイオインフォマティクスを
少しかじるようなテーマにしないかともちかけられた.そして,バイオインフォマティク
スの研究室を紹介され,そこで基礎を教えてもらうことになった.研修先の研究室の指導
教官による丁寧な指導もあって,計算機を使った解析に夢中になった.やがて夏になり,
博士後期課程の願書を提出する時期がきたが,このときはまだ将来,ウェットな実験をす
ることも考えていたので,所属していた専攻で願書を提出した.
 ところが,秋口を過ぎたあたりから,ウェットな実験ではなく計算機を使った解析だけ
で研究を進めたいと思うようになった.そこで,所属する研究室のボスに"今後も計算機
だけで研究を進めたい"という旨を伝えたところ,"ここは生化学の研究室だから,実験に
戻ってもらいたい.そういう希望ならば外部進学を考えなさい"と言われた.そこで,研
修先の研究室に進学しようと考えたが,すでに願書の提出の締切はすぎており,そこの学
生になるには半年待たねばならないということがわかった.浪人生活を送ったこともなく,
世間でいうところの挫折を知らない筆者にとって,学歴に半年のブランクができるという
ことは未知の恐怖であった.
 学位をとるまではウェットな実験をして,そこから先はドライな研究で生きていこうと
も考えたが,それでは給料をもらいながら実験手法を一から勉強し直すことになってしま
う.結局,計算機を使うことにこだわった筆者は,外部進学することを決心した.当時は,
携帯電話の端末に凝っており,端末に関することならなんにでも答えられる自信があった
ので,"半年間,電気屋で携帯電話を売るバイトをしようと思っています"というようなこ
とを研修先の指導教官にこぼしたところ,たまたま博士後期課程の2次募集をしており受
入れが可能だというバイオインフォマテクスの研究室を紹介してくれた.その研究室の
を聞いたところ研究内容がほぼ自分の興味とマッチしたので,そこに入ることに決めた.

あの状況でベストに近い研究室に入れたのは奇跡に近いと思っている.ところが,入学し
たあとがたいへんであった.当初,プログラミングができなかった筆者はなかなか仕事が
はかどらず,1年ほどはまともな解析ができなかった.他人から直接こっぴどく叱られる
ことは(あまり)なかったが,つねに自分で自分を責めている状態であった.また,"博
士後期課程でわざわざ進路変更したのは,きみ自身に問題があって前の研究室になじめな
かったからではないか"と言われたこともあった.前の研究室の同期と連絡をとって愚痴
をこぼし,1年半ほどは進路変更したことを後悔していた.しかし,時が経つにつれ,あ
のときに無理矢理にでも進路を変更したことがいまの自分につながっているという実感が
わいてきた.いまではあの決断を後悔してはいない.

 個人的な意見を書いてしまったが,進路変更するかどうかは自身の判断で決めていただ
きたい.自分の進路を決定するのは自分しかいないからである.


滝川翔子(東京都・大学院生)
E-mail:skyline32black@@gmail.com