細胞はどうできるか? 〜膜研究最前線〜

中野明彦先生
(理化学研究所・東京大学理学系研究科)

梅田真郷先生
(京都大学化学研究所 複合基盤化学研究系)

オーガナイザー:片山健太(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻M2)

22日 9:00〜


案内文+講師要旨

細胞はどうできるのでしょうか?

 すべての生物は細胞からでき、細胞は生体膜を物理的基盤としています。そこで、生命を理解するためには、「生体膜がどのように構成され、どのように動き、どのような役割を果たしているか」を明らかにしなければなりません。しかし、生体膜はひとつひとつの部品にしてしまうと生体膜でなくなってしまうため、たくさんの困難を抱えて研究が進展してきました。そして、ポストゲノムで部品が機械的に明らかになってきた今、膜研究は細胞を包括的に理解するための主要なフロンティアになろうとしています。

 このワークショップでは、「細胞はどうできるか?―膜研究最前線―」をタイトルにして、膜研究の最前線におられる二人の先生方にお話していただきます。

 梅田先生は、生体膜システムを構築する基本因子である脂質分子に着目され、脂質分子の集団としての分子運動とその秩序を制御する基本的なパラメーターを把握することにより、生体膜の構築と作動原理を新たな視点から理解し、生命現象のより一層の理解と人工生命構築への礎を築くことを目指し研究されておられます。今回、1)生体膜における脂質分子の分子運動を規定する蛋白質群の網羅的な同定を行い、各蛋白質の機能解析を足掛りに、細胞及び個体の形態形成の原理を理解する研究、2)ショウジョウバエの温度嗜好性変異体群(atsugari, samugari等)の樹立と解析を通して、生物の温度応答と生体膜システムの関係、さらに行動創成の分子機構を明らかにする研究、をご紹介いただく予定です。

 中野先生は、分泌や液胞形成に代表される細胞内のタンパク質輸送を実現している、小胞を介したダイナミックな膜の流れ−メンブレントラフィックに注目されておられます。生化学や遺伝学の手法により、輸送と選別の分子機構が解明されつつありますが、先生は超高感度高速共焦点レーザー顕微鏡の開発により、オルガネラ膜系や微細な小胞の動き、そしてその性質の変化をリアルタイムで生きた細胞内で観察することに成功されています。この可視化技術によって明らかになりつつある、メンブレントラフィックがさまざまな高次機能に果たす重要な役割や、これまでの研究の進展等についてご紹介いただく予定です。

 併せて、独創的な研究をされてこられたお二人の先生方に、研究の進め方に関するお考え(哲学)についてもお話しいただきます。質疑応答も活発なワークショップをつくっていこうと考えていますので、ぜひご参加ください。

 

中野明彦先生 プロフィール

 

1) 2) メールアドレス& web ページ
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 発生生物学研究室
E-mail: nakano@biol.s.u-tokyo.ac.jp
Web: http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hasseipl/lab.html

理化学研究所 中央研究所 中野生体膜研究室
E-mail: nakano@riken.jp
Web: http://www.riken.jp/r-world/research/lab/wako/membrane/

3) 略歴
1952年 北海道夕張市生まれ
1975年 東京大学理学部生物化学科卒業
1980年 同大学院博士課程修了(理学博士)
同年 国立予防衛生研究所化学部研究員
1986年 同主任研究官
(この間1984?1986年 UC Berkeley にポスドク留学)
1988年 東京大学理学部生物学科講師
1991年 同助教授
1997年 理化学研究所主任研究員
2003年 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授
理研も招聘主任研究員として兼任して現在に至る

4) 研究テーマと抱負
「メンブレントラフィックの分子機構」「多細胞生物の組織形成,環境応答などの高次機能におけるメンブレントラフィックの役割」
細胞内の一見でたらめに見えるようなダイナミックな膜の流れの中で,個々のタンパク質がいかに正しい方向を知り,目的地を見つけていくのかを知りたい。少しでも多く分子の言葉で語ることと,自分の目で観て確かめること。すごい顕微鏡を作っているつもりだけど,もっともっとすごいのが欲しいね。それから,思いもよらなかったことにトラフィックが絡んでいることを知るとうれしいかな。これは抱負というより生き甲斐?

5) 趣味
テニスとスキー,最近ではダイビング,と書くとまるでミーハースポーツ専門だけど結構マジ。夏の学校までにはMSD取得の予定。あと,クルマもかなり。それから蕎麦打ちかな。どれも時間がない!

6) 自分の院生,ポスドク時代について(若手へのメッセージも)
院生時代は,東大生化の宮澤研に籍を置きながら,医科研の上代研で生化学を習ってた。新井賢一さんや長田重一さんが助手でいた時代。三菱化成生命研の大島泰郎さん(当時)のところで高度好熱菌Thermus thermophilus を大量培養しては上代研でせっせとEF-Tu(ポリペプチド鎖延長因子)を精製。そして宮澤研に戻ってNMR測定。当時は無謀と言われながら大きなタンパク質のNMRを測るのが楽しかった。生命現象は全て物理と化学でわかるはずだと傲慢に言っていて(いやもちろんそれは最終的には正しいのだろうけど),あとで痛い目に会う。研究室に残る選択肢もあったのかもしれないが,ヒモの身分から逃れたいが故に焦って公務員試験を受け,受かってしまったので職を探したらラッキーにも予研(現国立感染研)が拾ってくれた。ただ,NMRからは足を洗わざるを得ず,生体膜研究という泥臭い世界に。これまでタンパク合成をやってたんだから分泌でもやったらと赤松部長に言われ,これがライフワークになる。さらに,室長だった榊原さんに遺伝学の面白さを教わったのも人生の転機になった。
ポスドクに行かせてもらったSchekman研は,酵母細胞生物学の発祥地の1つ。ここで自由自在に操れる酵母分子遺伝学の虜になる。さらに,日本に帰るのが嫌で嫌で,帰る直前まで実験室に篭って実験を続け,最後の最後にシーケンスがつながった遺伝子の産物が(当時はシーケンスも大変だったのよ),日本に帰ってから低分子量GTP結合タンパク質と判明(Sar1と命名)。小胞輸送におけるGTPase分子スイッチの概念を提唱し,これが出世作になった。しかし,この概念も元はと言えば上代先生のEF-Tuの研究から。お釈迦様の手のひらから出られてないのかなぁと思ったことであった。
教訓。何かを発見しようとあまり力まないこと。自然体で生物と(細胞と)接していれば,必ず何かを教えてくれる。人が思いつくことなんて所詮知れている。

7) 研究者になるために必要なものは?
一番大事なものは好奇心かな。なぜだろうという素朴な気持ちを持ち続けられれば誰でもよい研究者になれるのでは。産業や社会への貢献も大事だけど,そればかりが大合唱になるのには辟易する。あと,実験科学者なら器用であって欲しいけれど,不器用なのに成功している人も結構いるね。

 


梅田真郷先生 プロフィール

 

1) 2) メールアドレス& web ページ
京都大学・化学研究所 複合基盤化学研究系
E-mail:umeda@scl.kyoto-u.ac.jp
Web:http://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~umeda/index.htm

3) 略歴
1978年3月 東京大学薬学部・生命薬学科卒業
1983年3月 東京大学薬学系大学院博士課程修了(薬博)
1984年3月 米国ベイラー医科大学・内科・膠原病科留学
1986年4月 帰国・東京大学薬学部・衛生裁判化学教室・助手
1994年7月 東京都健康局副参事、東京都医学研究機構・東京都臨床医学総合研究所・炎症研究部門を担当、
2000年3月 お茶の水女子大学連携大学院教授併任
2003年2月 京都大学・化学研究所・教授、化学研究所では超分子生物学研究領域を担当、大学院教育では理学研究科・生物科学専攻・生物物理学系・超分子生物学分科を担当
2004年4月  学術システム研究センター・研究員併任

4) 研究テーマと抱負
科学技術の進歩により、私たちの体をつくる様々な物質(分子)が明らかになってきました。一方、この多様な分子がどのように集まることにより生命が生まれるのか、さらには生物の多様なかたちや行動がどのようにして形作られるのか、これらの疑問についての研究はその緒についたばかりです。私たちは、酵母、ショウジョウバエ、培養細胞を研究材料として、これらの課題を解決すべく研究に取り組んでいます。

5) 趣味
サイクリング(以前はサイクリングでの峠越えとタンデムでの家族旅行、通勤はこれまですべて自転車で、現在はリカンベントで通っています) 釣り(子供の頃から海辺で育ち、釣りは生活の一部でした。今は、魚を釣るよりボーと海を見ていることの方が多くなりました) 中国拳法(太極拳と基本功は、学生時代から毎日続けています)

6) 自分の院生,ポスドク時代について(若手へのメッセージも)
幸か不幸か、あるいは恩師の井上圭三先生の方針か、院生時代からテーマは自分で考え、模索して、必死にあがきながら研究を進めてきました。この過程で、自分が夢見ながらも解けなかった疑問が糧となり、現在の研究があるように思います。また、院生時代から現在まで、朝9時から10時まで毎朝欠かさずに様々な分野のバイブルと呼ばれる良書を選んで読書会を続けています。

7) 研究者になるために必要なものは?
つねに前向きに、Always further、でしょうか。

 

 

ワークショップTOPへ戻る