神経細胞分化機構の解明によって、脳がどこまで分かるのか?
〜ゼブラフィッシュの遺伝子操作と突然変異体解析の可能性と限界〜

岡本仁先生(理化学研究所、脳科学総合研究センター)

オーガナイザー:田中靖史(神戸大学医学部神経発生学D2) 

 脳の発生学を述べる前に、「発生学」とは分子生物学、遺伝学、形態学を含んだ学問領域のことであり、現在の生物学における中心的存在であるということができます。今回述べる脳神経発生学はその中の一部であると考えてよいでしょう。

 このワークショプでは、主に脊椎動物の神経発生研究において、小さな熱帯魚「ゼブラフィッシュ」の脳の発生過程に注目して、そこから解き明かされる様々な神経回路形成・発生パターンの分子機構について、岡本先生に現在進行中の実験例も含め、語っていただこうと思います。


 ゼブラフィッシュは、脳の単純さや扱い易さから遺伝子発生学という複雑な分子メカニズムを解き明かす上で非常に優れた比較的新しい実験動物です。近年、医学の領域においてもますます重要な実験動物になってきています。

 本ワークショプでは、国内唯一のゼブラフィッシュの突然変異系統を用いて大規模な解析を進めている岡本先生にゼブラフィッシュの脳研究の魅力やあるいは将来、どのような方向で研究か進んでいくのかについて知るキッカケとなればと考えております。



<参考書>
脳神経研究2004、実験医学増刊、<第一章:神経系の発生・分化と回路形成>羊土社、vol.21,2003,p30-36

<もっと勉強したい方へ>
エッセンシャル発生生物学、Jonathan Slack著、大隅典子訳、羊土社、2002

 

講師要旨 【岡本 仁】
理化学研究所、脳科学総合研究センター、発生遺伝子制御研究チーム
hitsohi@brain.riken.jp

 
 我々のグループでは、他のいくつかの研究グループと共同で、運動神経細胞でGFPを発現するトランスジェニック・ゼブラフィッシュを用いて、神経系の突然変異のスクリーニングを行ってきた。このたび約1900ゲノムのスクリーニングを終え、約150系統の興味深い突然変異体を見つけることができた。この中で我々は特に、運動神経細胞の分化に異常をきたす突然変異群の単離に精力を注いできた。本セミナーでは、このようなアプローチによって、神経細胞が誕生し、移動し、軸索を伸展し、特異的標的と結合する過程の一つ一つに障害を持つ突然変異系統を単離できることを述べ、我々が従来から取り組んできた、運動神経細胞の分化を規定する転写因子を同定し、それを支点に、転写因子の発現制御機構と転写因子下流標的遺伝子群を解明しようというアプローチとどのように補完できるのかを論じたい。
 最後に、胚の個体全体で神経回路網を可視化したゼブラフィッシュと、突然変異解析とを組み合わせた我々の研究が、神経細胞分化の素過程の解明に留まらず、脳機能のさらに高次の機能の解明へと繋がっていこうとしていることを説明したい。

(参考文献)岡本仁、ゼブラフィッシュの神経発生。脳の発生・分化・可塑性。p30~41。
      シリーズバイオサイエンスの新世紀11巻。御子柴、清水編。共立出版。



 

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