Symposium of 2003 summer school

シンポジウム 「ヒトとは何か?」

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夏学のシンポジウムのテーマ 講師の先生の要旨を公開しました。
下にありますのでぜひご覧ください。

 

■ 城石 俊彦 先生  

   

国立遺伝学研究所系統生物研究センター 哺乳動物遺伝研究室教授    

   

■ 宝来 聡  先生

   

総合研究大学院大学先導科学研究科生命体科学専攻教授

   

■ 平井 百樹 先生 

   

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

   

■ 松田 洋一 先生 

   

北海道大学先端科学技術共同研究センター教授

   

■ 押村 光雄 先生  

   

鳥取大学大学院医学系研究科機能再生医科学教授

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コンセプト

 

   幅広い参加者層、そして様々な専門分野の研究者が介する「夏の学校」。その目的はまさに異なる研究分野の方々との親身な交流であり、より専門的へとになりがちな研究生活において、大いなる刺激となり今までには気づかなかった新しい考え方や見方の発見につながることを期待しております。その夏の学校において、唯一、参加者一同が介する講演会がシンポジウムです。今年は、このシンポジウムのタイトルに人類学最大のテーマ「ヒトとは何か?」を掲げ、種の起源・進化について分子生物学的角度から考察し、ヒトという生命体の素顔に迫ってみたいと考えています。そこで、ヒトの成り立ちを考える上で非常に重要な知見、生命現象をご提示していただくことを目的に、以下にご紹介します5名の先生方をお招きし、分子人類遺伝学の視点より明らかにされたヒトとその他の生物種との相違点についてご講演して頂く予定であります。


1. ヒトゲノムプロジェクトの進展に伴い、膨大な分子データの洪水の中で従来の生物学研究は大きく変貌を遂げようとしています。このような状況において「ヒトとは何か?」というテーマの下、人類と生命の進化をDNAレベル、染色体レベルで解き明かし、ヒトの実体に迫るために、分子人類学分野において最先端のご研究をなされている3名の先生方をお招きいたしました。第一部として、宝来聡先生にはミトコンドリアDNA に焦点をあてた人類進化について。平井百樹先生には塩基配列の違いだけでは浮かび上がってこないヒトと類人猿の染色体像の比較に基づいた種間における相違について。松田洋一先生には原始爬虫類より派生した爬虫類、鳥類、哺乳類の核型進化と分子系統進化との比較に基づいた脊椎動物とヒトの進化についてご講演していただきます。「ヒトとは何か?」という人類遺伝学最大のテーマを、強力な講師の方々とともに、多分野の若手研究者が集うこの「夏の学校」にて統合的に討論し、人類と生物進化の痕跡を辿っていきたいと思います。
           
2. 同様にゲノム配列の決定が進められ、とりわけヒトとマウスのゲノム構造あるいは機能の比較が飛躍的に進展するに伴い、ヒト疾患モデルとしてのマウスはより重要な意義をもちつつあります。そこで第二部は、城石俊彦先生をお招きし、化学変異原ENUを用いたマウス突然変異体作製の現状と、そこから浮かびあがってきたヒトとマウスの遺伝子機能の相違点についてご講演して頂きます。さらには、鳥取大学より押村光雄先生をお招きし、ヒトの染色体をマウス細胞内に移入するという独創的な手法を用いたマウス細胞内における導入ヒト染色体の興味深い挙動について紹介して頂き、この2点よりヒトとマウスの違いを知る手がかりを探索し、その生物学的意義についても考察したいと考えております。        

講演要旨

 

■ 城石 俊彦 先生  

   

理化学研究所ゲノム科学総合研究センター

国立遺伝学研究所系統生物研究センター哺乳動物遺伝研究室教授

   

ヒト疾患モデルとしてのマウス突然変異体

 哺乳動物としてヒトとマウスでゲノム解読がなされ、DNA配列上の両種の相違が総括的に比較できるようになった。現在、ゲノム上の多数の遺伝子の機能について、両種を中心として体系的な解析がなされようとしている。このための一つのアプローチとして、マウスを材料として体系的に突然変異体を作製し、その表現型を詳細に解析して遺伝子機能を明らかにしようという大規模プロジェクトが世界各国で立ち上がっている。これらの研究は、同時にヒト疾患のモデル動物を作製して疾患の原因や治療法を開発するという使命を帯びている。今後は、ヒト疾患から明らかとなるヒト遺伝子機能との比較により、ヒトとマウスの遺伝子機能の相違点も浮かび上がってくるであろう。このセミナーでは、化学変異原ENUを用いたマウス突然変異体作製の現状とヒト疾患モデルとしてのマウス突然変異体の意味について考察する。

   

■ 宝来 聡  先生

   

総合研究大学院大学先導科学研究科生命体科学専攻教授 

ミトコンドリアDNAで探る人類の起源と進化

 「種の起源」の著者として有名なイギルスの進化学者のチャールス・ダーウィンは、かつて次のような言葉を残しました。「人類の起源とその歴史にいずれ光が当てられるであろう」。さてダーウインの死後、すでに100年以上の時がすぎましたが、1970年代の後半から始まった遺伝子解析のテクノロジーは目覚ましい進歩とげました。このテクノロジーを進化生物学へ導入することによって、いまや私たちは人類の歴史に新たな光を注ぐことが可能となったわけです。
 私たちが取り組んでいるのは、細胞の内部に存在し、細胞が必要とするエネルギーを作り出している"ミトコンドリア"という小器官にあるDNAです。これを"ミトコンドリアDNA"といいますが、細胞の核に含まれ、個々の生物を特徴づけている染色体DNAとは別に存在し、母親由来のものだけが子どもに引き継がれるという、独特の遺伝様式をとります。
 ミトコンドリアDNAによるこれまでの研究から、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ヒトがどんな順序でいつごろ分かれたのか、また現代人はいつどのように誕生したのかが、精度高く決められるようになりました。さらに日本人の由来に関しても興味ある知見が得られました。

   

■ 平井 百樹 先生 

   

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

「シークエンスでは浮かび上がってこない、ヒトと類人猿の染色体レベルの違い」

 ヒトという種を決定する遺伝情報があるとしたら、それは何であろうか。ゲノム解読は完了したというが、塩基配列レベルでのヒトの特異性の解明はだいぶ先になりそうである。私たちは、ヒトとチンパンジーを塩基配列と染色体構成の両面から比較している。mRNAの5'非翻訳領域とコード領域の塩基配列の種差は、それぞれ1.2%と0.6%であった。一方、染色体をみると、両種間には10か所の構造変化(1つの融合と9つの逆位)が知られている。ヘテロクロマチンの量と分布の種差も明瞭である。ヒトとチンパンジーの姿を見間違うことがないのと同様、蛍光in situ hybridization法で観察すると両種の染色体を見間違うことはない。染色体レベルでの大規模なゲノム変化が種分化と関連していることはたしかである。最近では、共通祖先に生じた染色体の構造変化そのものによる生殖隔離が種分化をもたらしたのではなく、特に構造変化した染色体において遺伝子が速く進化したことが種分化を推進させた、との説も提示されている。しかしヒトの種分化の機序についてはまだ不明な点が多い。ゲノム科学はすでに、塩基配列という一次情報からエピジェネティックな因子の解析、さらにはトランスクリプトーム、プロテオームの研究へと動いている。しかし、一歩引いて染色体(クロモソーム)という巨大構造に焦点をあわせ、ゲノムを俯瞰的に再考することも必要とおもう。それには先ず、分子細胞遺伝学の手法をもちいて見えてくる、ヒトと類人猿の染色体の違いについて検討してみたい。

   

■ 松田 洋一 先生 

   

北海道大学先端科学技術共同研究センター教授

脊椎動物の種分化に伴う核型進化と分子系統進化


 真核生物は、その種特有の染色体の数と形をもつ。このような種特異的な染色体核型は、長い進化の過程で変化し獲得されてきたものであり、数多くの生物種の染色体の構造や機能を解析することによって、生物の進化の歴史を垣間見ることができる。最近の分子細胞遺伝学の発展により、従来の形態学的な比較だけでなく、染色体上の遺伝子の配置、染色体を構成するDNA配列の構造や染色体上の分布を比較することによって、物質的な裏付けをもって進化過程に生じた染色体の構造や機能の変化を調べることができるようになった。最近では、比較染色体マッピングによって、鳥類と哺乳類は3億年以上前に共通の祖先から分岐したにも関わらず、ニワトリーヒト間で高い染色体相同性が存在することが明らかにされた。また、鳥類と爬虫類間ではさらに高い保存性が存在することが演者らによって見いだされている。
 進化過程における染色体の構造変化は時間軸に比例しないことから、これまで核型進化と分子系統進化に関するデータが比較されることはほとんどなかった。しかし、最近では染色体相同性を指標にすることによって、核型進化のプロセスが分子系統樹とよく対応する事例が見いだされてきた。本講演では、ヒトを脊椎動物の一種と位置づけ、原始爬虫類より派生した爬虫類、鳥類、哺乳類の3綱を中心として、染色体相同性、性染色体の分化と起源、マイクロ染色体の起源などに関する研究成果を紹介する。そして得られた結果に基づき、核型進化と分子系統進化を比較しながら、脊椎動物の進化について考えてみたい。

   

■ 押村 光雄 先生  

   

鳥取大学大学院医学系研究科機能再生医科学教授

「マウス細胞中のヒト染色体」

マウス細胞とヒト細胞との融合細胞では,ヒトの染色体が選択的に脱落する。他の種間の組み合わせにおいても同様に一方の種の染色体が選択的に脱落する。その理由として幾つかの仮説はあるものの,明確な解答は得られていない。しかし,この現象は過去多くの細胞生物学者によって利用され,様々な生命現象の解明や遺伝子マッピングに貢献してきた。また,最近では1本のヒト染色体やその断片をマウスES細胞に導入し,ヒト染色体を保持するマウスも作製されている。いったいヒトの染色体はマウス細胞の中でどのような挙動を示すのであろうか?ヒトの遺伝子発現はどのような発現パターンを示すのであろうか?ヒトの染色体はマウス細胞の中でリプログラミングされるのであろうか?ヒト染色体の減数分裂は?これらのことはヒトとマウスの違いを知る手がかりとなる可能性がある。
これまでの知見や,演者が関わってきたマウスXヒト細胞実験を通して経験した事柄や明らかになった事実を基にヒトvsマウスについて考察してみたい。

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