〜脂質代謝から広がるめくるめく細胞応答の世界〜
さらに脂質はその代謝過程から様々な脂質メディエーター(生理活性脂質)が産生します。これらは,細胞の分化や増殖,さらには血圧調節,炎症免疫反応,神経機能な どを微妙に調節しています。なかでもプロスタグランジンは、細胞内においてアラキ ドン酸からシクロオキシゲナーゼの作用により生成する脂質メディエーターであり、 生体内でそれぞれ特異的な受容体を介して多彩な作用を示します。内田浩二先生は、 プロスタグランジンD2がさらに反応して生成したシクロペンテノン型プロスタグラン ジンの生理活性についてお話くださいます。
このように一昔前は遅れをとっていた脂質研究も、今や盛んに繰り広げられています。その第一線で活躍する先生方にお話を伺う絶好のチャンスです!!脂質代謝の過 程で細胞はどのような応答反応を示すのか?私自身も非常に興味があります。皆さん ふるってご参加下さい。
オーガナイザー
遠山 朋子(椙山女学園大学大学院生活科学研究科食品栄養科学専攻)
福智 喜子(椙山女学園大学大学院生活科学研究科食品栄養科学専攻)
シクロペンテノン型プロスタグランジンの生化学
講師:内田 浩二 先生 (名古屋大学大学院生命農学研究科 助教授)
J2型シクロペンテノンPGは、PGD2の非酵素的脱水反応により生成するものと考えられ、これまでにPGJ2、D12-PGJ2、および15-deoxy-D12,14-PGJ2 (15d-PGJ2) の3種類が報告されている。ごく最近の論文でも、PGD2からこうしたPGJ2類への変換経路としてPGJ2→D12-PGJ2→15d-PGJ2が採用されているが、すでにこの経路は間違いであることが判明している。PGJ2は別々の経路でD12-PGJ2および15d-PGJ2に変換されることが明らかになっており、PGJ2から15d-PGJ2への脱水・異性化は非触媒的に、またPGJ2からD12-PGJ2の異性化には血清アルブミンが関与する。こうしたPGJ2類は、これまでのところ特異的な細胞膜受容体の存在は知られておらず、脂溶性低分子化合物と同様の仕組みで細胞へ取り込まれるものと考えられている。細胞内では、核などのオルガネラへの移行が報告されていることから、結合タンパク質の存在が示唆される。シクロペンテノン構造を有することから、タンパク質などの求核性化合物と速やかに反応するものと考えられ、特にチオール基との反応性に富み、グルタチオンとの付加体生成が知られている。こうした反応性は、次に述べるシクロペンテノンPGの生理作用と密接に関連している。シクロペンテノンPGはその多様な生理作用から多くの研究者の興味を引いてきた。特に、細胞分化誘導活性、細胞増殖抑制、抗転移活性、抗腫瘍活性、抗ウィルス活性などを示すことから、癌治療への新戦略としての期待がかけられてきている。また、シクロペンテノンPG類による解毒酵素誘導を伴う細胞応答が見いだされ、癌治療だけでなく癌予防との関わりが示唆されている。特に、グルタチオン S-トランスフェラーゼなどの第II相解毒酵素を速やかに誘導し、さらにその誘導機構はイソチオシアネート類などのMichael reaction acceptorsと呼ばれる解毒酵素誘導物質と全く同様であることから、癌予防化合物に典型的な解毒ポテンシャル増進効果をもつことが明らかになっている。このほか、最近では脂肪細胞分化に関わる核内受容体PPARg (peroxizome proliferator-activated receptor g) の内因性リガンドとして、シクロペンテノンPG類のうちでも15d-PGJ2が脂肪酸代謝酵素の転写調節に関与していることが示唆され、大きな話題となった。一方、こうした一面ポジティブな生理作用以外に、シクロペンテノンPGにはその反応性ゆえに代謝毒としての作用についても明らかになっている。その一例として、シクロペンテノンPG類が、ヒト神経芽細胞腫に対して劇的に酸化ストレスを誘起し、強い毒性作用を示すことが判明している。こうしたデータから、中枢神経系において必須なシクロペンテノンPG類の神経変性疾患原因物質としての可能性が示唆されている。
このようにシクロペンテノンPGは様々な生理作用を示すことが明らかになってきているが、シクロペンテノンPG本来の生理活性はいまだ明らかになっておらず、内在性化合物としての細胞機能を明らかにすることが当面の目標である。特に、特異的結合タンパク質や受容体の存在の有無は早急に明らかにされなければならない。また、シクロペンテノンPGの化学構造修飾による機能改変も試みられており、医薬などへの応用に期待がかかる。
参考文献
1. Kawamoto, Y., Nakamura, Y., Naito, Y., Torii, Y., Kumagai, T., Osawa, T., Ohigashi, H., Satoh, K., Imagawa, M., and Uchida, K. (2000) Cyclopentenone prostaglandins as potential inducers of phase II detoxification enzyme: 15-deoxy-D12,14-prostaglandin J2-induced expression of glutathione S-transferases. J. Biol. Chem. 275, 11291-11299.
2. Kondo, M., Oya-Ito, T., Kumagai, T., Osawa, T., and Uchida, K. (2001) Cyclopentenone prostaglandins as potential inducers of intracellular oxidative stress. J Biol Chem. 276, 12076-12083.
参考文献 蛋白質核酸酵素 45、2612-2623、 (2000)