血管新生分科会

血管新生因子のゆくえ
---その構造、役割とシグナル伝達---

講師
三井 洋司 先生(独立法人)産業技術総合研究所、筑波大学連携大学院
高橋 知子 先生(独立法人)産業技術総合研究所、東京大学医科学研究所


血管は人間の体の中をくまなく走り、その総延長は10qにも及ぶ管であり、血管内皮細胞が覆う面積は7000u、重量は1s人体最大の臓器と考えられる。 この臓器は酸素や栄養の供給と老廃物の廃棄を行っていて全身のほとんどの組織の形態形成にも、実質細胞のパートナーとして極めて重要な役割を果たしている。この様な血管系であるが、ヒトにおいては、身体の成長とともに血管系も増殖、進展するが思春期以降男性では恒常的な血管新生は観察されない。しかし女性の場合には、性周期に伴う卵巣の黄体形成や子宮内幕の発育の祭に、一過性の強い血管新生が認められる。さらに妊娠の際に作られる胎盤は胎児と母体の血管系のネットワークといえる組織であり、劇的な血管新生と維持、物質交換の場である。したがって生理的な条件において様々な時期、組織において血管新生はダイナミックに行われるといえる。
一方、血管新生は多くの疾患と関係している、糖尿病の際の網膜症、いろいろな炎症性疾患(たとえばリュウマチ様関節炎)や創傷の治癒過程などの病的状態でも血管新生が生じる。また癌の進展と血管との間にも密接な関係がある。
21世紀は再生医療の時代といわれ、血管新生の制御は上記の様な疾患を中心に臨床応用に最も近い領域の一つである。
そこで本分科会では、三井洋司、高橋知子両先生をお迎えして最新の研究も踏まえつつ血管新生について御講演いただこうと思います。 


オーガナイザー
平川伸洋  東海大学医学研究科・分子生命科学2


講演要旨

血管新生因子ー新しいものはとれるか?
講師:三井 洋司先生((独立法人)産業技術総合研究、所筑波大学連携大学院)

以下の項目に従って、その構造、役割を紹介し、今後の展望を述べる。

(1)血管新生の善と悪?
(2)内皮細胞増殖因子とどう違う?
(3)生体内で何してる(ノックアウトの報告)?
(4)In Vitro でのアッセイは、有効?問題?
(5)阻害因子と促進因子、何の治療に?
(6)ヒト血管内皮細胞を、遺伝子導入で不死化?
(7)不死化内皮細胞が、内皮増殖因子を分泌?
(8)不死化内皮細胞の移植で?


VEGFとその受容体
講師:高橋 知子先生 (産業技術総合研究所/東京大学医科学研究所)

血管新生は、胎生期における器官形成や、成熟期の卵巣における黄体形成や子宮内膜の一過性の増殖、胎盤の形成に密接に関与している。一般に血管内皮細胞は神経細胞と同様、寿命の長い細胞の一つといわれているが、上記のような過程においては一旦増殖刺激が加わると速やかに増殖し、必要に応じ増殖は停止し、正と負の厳密な制御を受けている。
 血管新生を正に制御する因子として以前からacidic FGF, basic FGF, TGF-bなどが報告され、研究の対象であった。しかし、 acidic FGF, basic FGFは分泌に必要なシグナルペプチドを持たず、分泌経路など不明な点が多かった。また、 TGF-bは内皮細胞に間接的に作用することが言われている。さらに、これらの因子は標的細胞が多岐にわたり、血管内皮細胞特異的とは言えなかった。
 近年、血管内皮細胞特異的増殖因子Vascular endothelial growth factor (VEGF)が発見された。VEGFは血管内皮細胞を特異的に増殖させる因子、あるいは血管の透過性を亢進させる因子として別々のグループにより同定されたものである。その受容体であるFlt-1と KDR/Flk-1は膜1回貫通型のチロシンキナ−ゼで、細胞外には7つの免疫グロブリン様構造をもち、細胞内にはキナーゼドメインとこれを二分するキナーゼインサートをもつことが特徴である。両者は主に血管内皮細胞に発現し、VEGFの標的細胞の特異性を決定している。この2つの受容体は構造的にかなり類似しているにもかかわらず、Flt-1の方がVEGFとの親和性は高く、キナ−ゼ活性はKDR/Flk-1の方が強い。様々な解析の結果、Flt-1は主にVEGFの量的制御に、増殖シグナルは主にKDR/Flk-1を介していることが推則された。KDR/Flk-1からの増殖シグナルについては、予想に反して、Rasをほとんど介さないという、多くのチロシンキナ−ゼの場合とは異なったものであった。
 その後のノックアウトマウスの解析から、VEGFはヘテロの段階で、Flt-1とKDR/Flk-1はホモの段階で、いずれも胎生初期に致死であった。特に2つの受容体はそれぞれ異なった表現型を示し、胎生初期の血管新生において異なった役割を果たすことが示されている。
 一方、VEGF-Flt系は正常な血管新生以外にも、リウマチ性関節炎などの炎症、糖尿病性網膜症、特に固形腫瘍などの病的な血管新生においても、その関与が報告され、臨床的な立場からの重要性も増してきている。このような経緯を踏まえ、VEGF-Flt系とその周辺について最近の報告を含めて概説したい。