RNA工学分科会

天然に存在しないRNA型プロテアーゼ阻害剤(RNAアプタマー)
〜生物に依存しないポストバイオテクノロジー〜

講師
菊池 洋 先生 (豊橋技術科学大学大学エコロジー工学系 生物基礎工学講座教授)


次々にモデル生物のゲノムが明らかになりつつある今、莫大なデータベースの中で何 に新規性を見い出すかが研究者の生き残る条件となりうる。そんな中、セントラルド グマの主役の一翼をになうRNAの研究が盛んになっている。これまでDNAやタンパク質 といった主役を助ける傍役といった感が強かったRNAが、発生、分化、能、といった 生命現象の中枢部で非常に重要な役割をしている事が分かってきている。その一 方RNAの機能性に注目し、生物の遺伝子発現のコントロールのみならず、生物を介さ ない様々な分野で活用しようという試みも存在する。今回は初期段階からRNAアプタ マーに注目し、生体内で機能する分子スイッチやタンパク質を阻害するアプタマーを 開発している菊池先生をお招きしアプタマ−研究のいまと今後についてお話して頂 く。


オーガナイザー
富田 悟志(タイテック株式会社 宣伝企画部 R&D, Marketing)


講演要旨

天然に存在しないRNA型プロテアーゼ阻害剤 (RNAアプタマー)
−生物に依存しないポストバイオテクノロジー-

講師:菊池 洋 先生 (豊橋技術科学大学エコロジー工学系)

 枯草菌のタンパク質分解酵素サチライシン(ズブチリシン)は、工業的にも広く利用されている非常に高活性な微生物菌体外酵素である。核酸との相互作用はないものと思われる。このような高い活性をもつ酵素を阻害するRNAアプタマーを作ることができるであろうか?そのような単純な疑問からサチライシンに対するRNAアプタマーの創製を試みた。両末端18塩基ずつの既知の配列にはさまれた47塩基のランダム配列をもつRNA集団から、サチライシン固定化セファロースを用いて、RNAアプタマーを選択した。このアプタマーはサチライシンに比較的よく結合し、プロテアーゼ活性を阻害する。速度論的解析から、このアプタマーは競争阻害剤として働いており、Ki値は2.5μMであった。同じセリンプロテアーゼであるトリプシンやキモトリプシンに対して、このアプタマーはほとんど阻害作用を示さないことから、特異性の高い阻害剤が創製されたと言える。このことは、天然に存在しないサチライシン−RNA間の相互作用を創製したことになり、将来的にはより高度な酵素の機能変換素子としてのアプタマーの開発が期待できる。今回得られたアプタマーは、微生物プロテアーゼに対する初めてのRNA型阻害剤であり、サチライシンの安定化剤、プロテアーゼ活性の分子スイッチとして機能できるものと期待される。このような、単純なアプタマーの利用についても討論したい。