老化分科会
百寿者と私達どこが違っているのか
講師
田中 雅嗣先生(財団法人岐阜県国際バイオ研究所遺伝子治療研究部)
不老不死とゆうものが、20世紀の技術では無理であったことを現在サイエンスを学んでいる私達は知っていますが、多くの人が健康で長生きがしたいと願っているのでは無いでしょうか。
近年日本では超の付く高齢化者社会をむかえ百歳を超える人も大勢いる現在ですが生物における老化のメカニズムは解明されていません。21世紀に入った今国内外で多くの研究者がこのテーマにとりくんでいます。
そもそも老化とは成熟期以後の加齢に伴い固体の恒常生が維持されなくなり死に至る過程をいいます。20世紀後半の爆発的な分子生物学の発展は私達に生命現象は遺伝子に書き込また情報によるものだとの考えを指し示しました。
動物個体の発生、成熟、生殖機構は遺伝子プログラムによって制御されており、現在の理解ではこの発生、成熟、生殖プログラムは「如何に多くの子孫に遺伝情報を伝えるかを巡って展開された生物進化の壮大な営みの所産である」と考えられています。それでは、老化し、死に至る過程はどのように遺伝子に書き込まれているのでしょうか、果たしてプログラムされいるのでしょうか?
老化過程は、発生過程に比べ個体差が大きい様に見えます、また個体でも老化の諸症状の進みぐはいに差がみられます。しかし基本的なプロセスは決してランダムではなく、一定期間に老化します。
このような謎の多い老化研究に本分化会では、百寿者や縄文人、弥生人等のヒトmtDNAを中心に大変ユニークな研究を進めておられる岐阜県国際バイオ研究所の田中雅嗣先生をお迎えして御講演していただく予定です。
オーガナイザー
平川 伸洋 (東海大学大学院医学研究科分子生命科学2)
講演要旨
ミトコンドリア遺伝子多型と老化
講師:田中 雅嗣 先生(岐阜県国際バイオ研究所)
長い人類の歴史を通じてヒトの平均寿命は50歳以下であった。子孫に遺伝子を伝達した後にどのような疾患が現れようとも、種としての存続に影響はない。生活習慣病はヒトの生物としての保証期間が切れた後に生じると言える。従って、多様な遺伝子多型が生活習慣病の背後に隠れている可能性がある。
ミトコンドリアDNA(mtDNA)は酸素代謝の場に置かれているため、活性酸素種によって損傷を受け、遺伝子変異が蓄積しやすい。ヒトのミトコンドリアゲノムは16569塩基対からなるが、イントロンがなく、全ての遺伝子が高発現している。細胞に2000コピーのミトコンドリアゲノムが存在すると仮定すると、3×107塩基対が機能している。核DNAは6×109塩基対であるが、エクソン部分は9×107塩基対である。mtDNAの進化速度は核DNAの約5?10倍であるので、mtDNAの機能的多様性は核ゲノム全体の多様性に匹敵する。
ミトコンドリア遺伝子多型が寿命に影響を与えている可能性を検証するために、百寿者のmtDNAの全塩基配列を決定し、百寿者において頻度の高い遺伝子多型Mt5178Aと、成人発症性疾患において頻度が高いMt5178C型を見いだした(Lancet 351: 185-186, 1998)。
mtDNA変異の発生に対する遺伝子型の影響を調べた。ミトコンドリア病患者群においてはMt5178A:C = 42:103であり、対照群におけるA:C = 277:356と比較して、有意にMt5178C型の頻度が高かった(p=0.0006)。Mt8993T→G変異(ATP6, Leu156Arg)およびMt8993T→C変異(Leu156Pro)は Leigh脳症の病因である。Mt8993T→G変異に基づく患者18例およびMt8993T→Cを有する患者3例の全例がMt5178C型であった。ヒドロキシラジカルはDNA合成の前駆体であるdGTPあるいはdATPを攻撃し8-OH-dGTPあるいは2-OH-dATPを生じさせる。T→G transversionはアデニンと8-OH-dGTPとの対合によって生じうる(A:T→A:8-OH-G→C:G)。2-OH-dATPはG:C→A:T transitionを誘発するのでMt8993T→C変異も説明しうる。
Mt5178C型においてミトコンドリア内のヒドロキシラジカル産生が高い可能性が示唆された。一方、Mt5178A型はmtDNA変異発生抑制効果を有することが示された(Mech Ageing Dev 116: 65-76, 2000)。
糖尿病患者において、Mt5178A型を有する患者は、Mt5178C型を有する患者よりも動脈硬化進展が9年分遅いことが明らかになった。糖尿病における動脈硬化進展にミトコンドリア遺伝子型とそれに基づくミトコンドリア機能の相違が影響を及ぼしていると考えられた (Diabetes Care 24: 500-503, 2001)。
mtDNA多型がパーキンソン病の発症に関与している可能性を考え、パーキンソン病患者96名についてmtDNAの全塩基配列を決定した。比較対照として、百寿者56名の塩基配列を分析した。チトクロームb遺伝子の領域を比較した結果、パーキンソン病患者において、過激なアミノ酸置換(哺乳類の間で保存され機能的に重要であると推定されるアミノ酸残基が別のアミノ酸に置換されていること)が散見されたのに対し、百寿者では過激なアミノ酸置換は検出されなかった。これらの過激なアミノ酸置換が特定の神経毒に対する感受性を増大させている可能性が考えられた。