タンパク構造分科会
〜膜蛋白への電子顕微鏡による試み〜
講師
藤吉 好則 教授(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻情報分子細胞学)
生物が生きていくうえで、その体内では様々な化学反応が起こっています。その大部分を触媒し、制御しているのがタンパク質だと言うことは皆さんもよくご存じでしょう。そんなタンパク質達がどのようにして多くの化学反応を識別して、触媒していくのか皆さん興味はありませんか?
タンパク質がどのような機能を持つかを調べることは非常に重要であり、それを調べる方法はいくつもあります。しかし、タンパク質が原子レベルでどのように物質を認識し、どのように相互のタンパク質に働きかけているかなどはその立体構造を明らかにしなければ、知ることは難しいでしょう。また、タンパク質を原子レベルで立体構造解析することは、そのタンパク質の機能を明らかにするだけではありません。明らかになった機能から、特定のタンパク質の働きを活性化あるいは阻害する薬剤を作り出すことにより、病気を治したりすることができます。他にも立体構造から、タンパク質の働きを模した物質を作ることにより、工業的な分野に役立たせるなど、その応用分野は様々です。
このようなタンパク質構造解析の中でも特に重要と考えられるのが膜タンパク質の構造解析です。なぜなら現在、創薬のターゲットの80%は膜タンパク質です。そして、ほとんど全ての生物のゲノムがコードしているタンパク質の30%は膜タンパク質であるにもかかわらず、可溶性タンパク質と比べてきわめて極めて僅かの構造しか現在までに解かれていないからです。もし、多くの膜タンパク質が構造解析されていけば、今まで不治の病と考えられていた病気も治せるようになるかもしれません。そこで本分科会では、構造解析が非常に困難であり、その構造が僅かしか解かれていない膜タンパク質の構造解析に電子顕微鏡を用いて取り組む藤吉先生にご講演していただきます。
オーガナイザー
水野伸宏 (京都大学大学院理学研究科化学専攻生物構造化学研究室)
講演要旨
膜蛋白質の構造・機能研究の現状と展望
講師:藤吉 好則 先生(京都大学大学院理学研究科生物物理学教室)
膜蛋白質を中心とした情報伝達の詳細な機構は分子生物学や細胞生物学的な研究の進展にもかかわらず、多くの残された研究課題として存在している。特に、細胞の情報伝達の分子機構を構造学的視点から理解することは、その重要性が認識されているにも関わらず、残された困難な研究課題となっている。
これまでに原子座標を決定できる分解能で構造が解明された膜蛋白質は僅かに20種類あまりである。このうち膜蛋白質の多くはX線結晶学で解析されており、電子線結晶学で解析された膜蛋白質はわずかに3種類にすぎない。しかし、電子線結晶学は膜蛋白質本来の姿である脂質膜の中に入った状態で解析できる手法であることや、少ない試料でも結晶化できる可能性があるなどの特徴が知られている。さらに、2次元結晶化は膜蛋白質(例えば、mGluR1のC末端60残基を付加したエンドセリン受容体)を共局在させる蛋白質(例えば、Homer1C)と共発現させると密に集合した膜断片として精製できるので、このような機構を利用した結晶化法が新に開発できる可能性がある。この方法は界面活性剤で可溶化して精製することが困難な膜蛋白質の構造を研究する上で有力な方法として期待される。また2次元結晶は膜の両側が開いているので、リガンドの結合によりチャネルが開閉される場合やGPCRのようにG蛋白質を活性化する場合でも、これらの活性化機構を動的に研究できる可能性がある。さらに極低温電子顕微鏡法と単粒子解析法を用いることによって、結晶を作製できないような膜蛋白質やその複合体についても、立体構造が解析出来る。
水が膜を透過する場合にも、イオンや低分子化合物さらにはプロトンをも通さないという機能を有するアクアポリン-1と名付けられた膜蛋白質が発見された。アクアポリンについての多くの研究から、4つの疑問がその構造解析の成功を待っていた。このチャネルは非常に多くの水分子を透過しつつプロトンをも透過させない機構をどのように実現しているかなどその4つの疑問に答えることが出来た。
以上のように、細胞の情報伝達において中心的役割を担うGPCRや各種チャネルの構造と機能の解明に焦点を合わせて研究を行っているが、このような膜蛋白質の構造と機能研究の現状と展望を、研究者の悪戦苦闘の歴史と合わせてお話する。Where electron cryo-microscopy is and where it is going.