科学ジャーナリズム論実践分科会


科学ジャーナリズムを考える 科学ジャーナリズムの何が問題か?

オーガナイザー
榎木英介(神戸大学医学部医学科)


 本分科会では、腰を据えてじっくり科学ジャーナリズムについて考えてみようと思 い、「科学ジャーナリズム論」と銘打って「骨太」の議論をしようと考えています。 皆さんの中には、生化学若い研究者の会の夏の学校なのに、何で科学ジャーナリズム を話題にするのか、生命科学とかけ離れすぎてはいないか、と訝しがった方がいらっ しゃるかもしれません。

 しかしながら、生化学若い研究者の会では、創設以来四十年に渡って、研究、科学 と社会の関係について考えてきました。どのような研究をするにせよ、社会との関係 から完全に遊離することはできません。こうした問題意識を持つことは、生化学若い 研究者の会の特色でもあるとさえ言えます。  今回科学ジャーナリズムを題材に選んだのには、二つ理由があります。一つは、研 究の成果を社会に伝える上で、科学ジャーナリズムは不可欠な存在であり、それゆえ 研究者とさまざまな軋轢も生み出してきたという点です。たとえばBSE問題、遺伝子 組換え食品、ヒトクローン問題など、生命科学を題材にした科学報道を目にしたとき、 私たちは違和感を感じることがあります。果たして研究成果が正確に伝えられている のだろうか、情報は公正だろうか?そして不信感を強め、「しょせんマスコミは?」な どと言ってしまいがちです。

しかし、科学ジャーナリズムと良好な関係を保つことは、自らの研究成果を正しく社 会に知ってもらうという意味で、非常に重要なことではないかと思います。うまく科 学ジャーナリズムを「利用」することは、これからの研究者にとって不可欠な素養に なるのではないでしょうか。この問題を、そもそも、科学ジャーナリズム(や科学) はいったい誰のためのものだろうかという根元的なところから考えてみたいと思いま す。  

もう一つの理由は、大学院卒業後の進路として、科学ジャーナリズムを考えてみた いということです。今まで学んできた専門知識を、専門家と市民の間に立って正確に、 かつわかりやすく伝える職業?これは研究歴を積んできた者にとって非常に魅力的な フィールドなのではないでしょうか?大学院重点化によって、皆がアカデミックポス トに就くことはできないという消極的な理由もありますが、むしろ積極的に、自分た ちの経験が生かされる職業としての科学ジャーナリズムの可能性を考えてみたいと思 います。

 当分科会は8月17日、18日の二日間に渡って開催されます。三日間どっぷり科学ジャーナリズムに浸かるのもよし、ちょっとのぞいてみるもよし。皆さんのご来訪をお待ち しております。また、当分科会の議論は夏の学校だけにとどまらず、今後も発展させ、 機会があれば発表していきたいと思っております。

講師 17日
 林 衛氏 
(ユニバーサルデザイン総合研究所主席研究員・
科学技術広報担当/元岩波「科学」 編集部)

長谷川眞理子 氏(早稲田大学政経学部教授)

 山口 勝 氏 
(NHKアナウンサー/ディレクター 前「サイエンスアイ」担当)

 井上 正男 氏 
(北国新聞 論説委員)

18日
 井上 智広 氏 
(NHKディレクター)

 横山 広美 氏 
(東京理科大学大学院生兼サイエンスライター)



17日: 科学ジャーナリズムの何が問題かI__その役割を探る

 1. 何のための科学ジャーナリズムか

 科学ジャーナリズムは重要である、とよくいわれます。しかし、それはなぜ重要な のでしょうか.そもそも何のために科学ジャーナリズムはあるのでしょうか。
 むずかしい科学をわかりやすく人々に伝えるため、という一つの答えがあります。 では,そもそもむずかしいものをなぜわかりやすくまでして人々に伝える必要がある のでしょうか。

あるのだとしたら、それは何のためなのでしょうか。

わかりやすく伝えるだけ、それでよいのでしょうか。
 「科学ジャーナリズムの何が問題かI__その役割を探る」では、このような点につ いて掘り下げていきたいと思っています。

 2.わかりやすさとは何か わかりやすさ。これは新聞、テレビ、雑誌などのあらゆる科学ジャーナリズムにお いて重要なものだといわれています.では,わかりやすさとはどのように実現するの でしょう?
むずかしい科学をわかりやすくするということは、どういうことなのか。科学がむ ずかしいものだとしたら、むずかしくなくしてしまうことで科学が科学でなくなって しまうのか。
そこまでいかなくとも、わかりやすくしてしまうことによって、何か大切なことが 失われてはいないのか。
 そもそも科学がむずかしいというのは本当か。
 また、わかりやすい情報ばかりが求められているのか。わかりやすいものが本当に 売れるのか。
 今回、NHKで実際に科学番組を作成されている講師の先生をお呼びし、番組作成の 現場から、わかりやすさについて考えてみたいと思っています。
講師 17日
 林 衛氏 
(ユニバーサルデザイン総合研究所主席研究員・
科学技術広報担当/元岩波「科学」 編集部)

長谷川眞理子 氏(早稲田大学政経学部教授)

 山口 勝 氏 
(NHKアナウンサー/ディレクター 前「サイエンスアイ」担当)

 井上 正男 氏 
(北国新聞 論説委員)


18日: 科学ジャーナリズムの何が問題かII__ジャーナリストになるには使うには  一般のために「わかりやすく」という考えは、じつは情報の送り手(例えば科学者 +メディア)の都合から考えられているのかもしれません。
 自省(反省も)を繰り返してきて思うのは、科学とは学ぶものでも教わるものでも なく、使うものだということです。使うためにある科学をたんに学んだり教わったり するだけの科学教育に対して普通の人が理科離れを示すのは、普通の人の見識の現わ れかもしれません。
 科学を誰が使うのか。科学を使うのは科学者であり、その成果を市民に知ってもら い還元するのがメディアの役割だといわれたら、そのメディアはほとんど科学を使う 人のためのものなのではないでしょうか。
 いまや、政治や企業活動と同じように科学は公共的な意味をもつ営みとなっていま す。科学は第一に市民社会のためにあるものであり、科学ジャーナリズムは市民社会 のためにあるものだといえるでしょう。
 市民社会にとっても,科学者にとっても有意義な、優れた科学を育てるために科学 ジャーナリズムは何ができるのでしょう。
 「科学ジャーナリズムの何が問題かII__ジャーナリストになるには使うには」では、 科学ジャーナリズムのよりよい「使い方」について考えると同時に、実際に科学ジャー ナリストになるにはどうすればよいか、理系大学院出身の科学ジャーナリストの方を お呼びして議論したいと思っています。
 そのために、新聞、テレビ、出版に携わる科学ジャーナリスト、科学館スタッフ、科 学ジャーナリズムを研究する科学者や学生・院生があつまったメーリングリストを密 かに結成し、議論を深めるべく準備を重ねています。 その成果である講演者の要旨を、一部おみせしてしまいます。

  18日
 井上 智広 氏 
(NHKディレクター)

 横山 広美 氏 
(東京理科大学大学院生兼サイエンスライター)