PET / in vitro PET による高次脳機能・脳特異的代謝の解析

講師  渡辺 恭良 先生(大阪バイオサイエンス研究所 神経科学部門)

   これまでの大脳生理学の知識(ことに、脳機能の担当部位に関する知識)は、おもに脳出血や梗塞などで偶然的に破壊された脳部位と失われた機能とをつなぎ合わせるという非常に不確定かつ長時間にわたる研究の結果であったが、現在は、ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)、ファンクショナルMRI、脳磁図などを用いた”生きて機能している脳”の情報を即時にあるいは短時間に知ることができる。これは、これまでわかっていなかった脳の高次機能や特定の精神神経疾患に迫れることも意味する。さらに、脳をはじめ生体の諸臓器に特異的な物質代謝や情報伝達と、それぞれの担っている機能とを結び付けるためには、生きて機能している生体システムでの実証のための分子レベルの研究が必須である。ことに、「こころ」をはじめ高次脳機能の研究に関してはその必要性の高いことに気づく。20世紀に発展した生物科学の方法論は、機能を担っている分子を純化しその構造と歯車であるこの分子精密機械の動き方を知るという還元的方法論である。しかしながら、このようなアプロー チにより部品(分子機械)の性能は解明されるとしても、部品が多層的に相互作用をしながら、あるいは、並行的に働くことによって統合的に可能になる”機能”との結びつきをどのように研究していくかという重要な課題は我々に突きつけられたままである。この課題は、21世紀に向かうバイオサイエンスの中心課題の一つであると思われ、近年の遺伝子ノックアウト動物に代表される様々なアプローチがなされている。我々は、ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)を用いて、この課題の解決法を模索している。すなわち、適切なポジトロン核種標識化合物を開発し、それらを超高感度分子プローブとして、生きて機能している状態での生化学的分子情報の動態追跡を行うものである。この方法は、特にヒトの生理・病態をそのターゲットに置く際に重要であると思われる。

 PETを用いて脳局所血流量を計測する脳賦活試験により、脳タスク依存的な配座(担当部位)や神経回路網の情報が得られる。ことに、視覚系の階層的脳タスクについては、様々なPET研究が行われ、我々も逆転視環境適応現象や中枢性視覚障害に関するPET研究を行ってきた。また、これまで未知の脳機能担当部位として、短時間の計測に関わる部位などを同定してきた。一方、その脳機能担当部位でどのような神経伝達物質やシグナル伝達分子が働いているかについて、PETを用いて神経伝達物質やその受容体をイメージング・定量解析する基礎的方法論を開発してきた。脳病態において重要視される様々な因子と細胞情報伝達、特異的物質代謝について、新規のイメージング法を開拓し、病態時のそれぞれの変化を探ることによって、病態の分子動態的把握、治療候補薬剤の効果について検討することができる。このような方法論が”個”の研究を進めるのに有力であることを十分意識し、同一個体の脳機能発達 過程や老化・病的過程の脳内分子環境推移を基礎的に解明することを目指して研究を進めている。  

[関連文献]
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