藤正先生要旨
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「生体機能の機械的設計」
化学機械はどのようにしてハードマシンになったか
藤正 巌 (政策研究大学院大学教授)
生物が機械としての側面を持つことは誰も反論することができない。
しかしまだ動物が力学的機械としての能力をどのようにして獲得したかは
科学的に明らかではない。
生物と同じような機能を持つ機械を作ろうとする人たちにとっては、
力学的機械として見た動物がどのような設計原理によって作られているか
を知ることは重要だが、現在の生物学の知識はまだそれを十分に教えて
くれはしない。従って生物の機能を模倣しようとする人たちは、
現在までは生物の機能を計測し、設計原理は全く異なっても、
それと同じ機能を持つ機械を作り出してきた。自動車・航空機・ロボット・
コンピュータに至る多くの機械は、生物の機能を模倣しようとした結果、
ある面で生物の機能特性を凌駕するところまで発展するに至った。
医学では人工心臓や人工腎臓といった物流型の人工臓器の設計は
生理学に基礎をおいてきた。しかし、動物機械の持つ高エネルギー効率、
超小型、柔軟性、低インピーダンス特性などの諸機能を人の作った機械で
具現化しようとすると、従来の生体機能のみに着目した模倣では
設計が不可能となる。それは今までの機械の設計原理がニュートンの
古典力学に依存していて、生物系のような構成素子がサブミクロンの寸法の
領域(ことに物流機器)では、エンジンの基本力である慣性力が
粘性や表面張力のような抵抗力にうちかてなくなるためだと
考えられてきた。大きさ100nmのミオシン分子をエネルギー変換素子として
利用し、化学エネルギーで動くような集積型のエンジンは
従来の古典力学ではその動原理を理解することは不可能であった。
しかし、厳然として動物は動く。動物は一体いつ、どのようにして
生化学反応の中から機械エネルギーに変換する仕組みを獲得したのだろうか。
多くの人が知っているように、生物は35億年前の地球ですでに
1000種のタンパク分子を持ち、それを部品として姑息に組み合わせ
新しい機能タンパクを作り、さらにそれを組み上げて機械系を作ってきた。
やがて、その部品は細胞骨格のようなハードな構造系と、
エネルギー変換素子のモータ・タンパクを作り上げ、15億年前頃には
生物の化学・物理エネルギー変換系ができあがったに違いない。
このようなエンジンの設計原理を確立するには、古典力学の理論を
より小さい寸法の世界へと拡張せねばならない。少なくとも、分子の
熱揺動をどのようにして制御するかの理論が必要だろう。
しかしそれだけで生物のエンジンの設計原理がわかるだろうか。
生物のエンジンは古典力学が通用する10の23乗のアボガドロ数の
領域ほど分子が多くはなく、そうかといって量子論が必要な
数十から数千の分子数の世界でもない。おそらくは、中間領域と呼ばれる
熱揺動が大きく関わる非平衡・開放系の領域で
理論を展開せねばならない。その理論ができてはじめて新しい機械の
設計ができるのは、ショットキーが半導体の
増幅理論を作り上げてはじめて電子機械が設計可能になったのと似ている。
一方、そのような素子を組み上げて作った真核細胞は
既に力学的機械と見なせる。細胞という機械エネルギー変換系を含む
基本ブロックが出来上がり、それを組み上げて一気に多様な動物機械を作った
のが、エディアカラの動物群やカンブリア前期の種の爆発となったのだろう。
デザイン上何の制限もないこの時代の地球で
極めて多様な形態の動物ができたのは、基本部品を組み合わせて機械を作る
エンジニア的発想そのものに見える。
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文献:
- 1) Micromachines, Oxford University Press, 1996
2) 藤正 巖:見えない機械。オーム社、pp.145. 1994
- 略歴
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1937年生 政策研究大学院大学・教授 高齢社会プロジェク
ト・プロジェクトリーダー
学歴:1964年 東京大学医学部卒、医学博士(東京大学、1970年)
職歴:1965年 東京大学医学部医用電子研究施設助手 75年 同助教授
89年 同教授(併任) 88年 東京大学先端科学技術研究センター教授
96年 埼玉大学政策科学研究科教授 97年 政策研究大学院大学(通称:
政策研究院)教授として現在に至る この間75年-78年 国際応用システム
解析研究所(IIASA)研究員(オーストリア)
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研究分野:
- 科学技術論、生物機械論、医療・福祉政策、応用システム分析、
人工現実感、人工心臓、赤外線画像工学
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研究の方向:
- 生物機械論が本来の研究テーマ。生物の原理で作動する
機械の設計のための生物機械の統一原理(中間領域機械工学)を研究。
多数の素子からなるシステムの分析研究を、人・社会システムへと
拡張することを狙って研究を行なっている。その対象として
成熟を迎えた人間という生物種の構成する社会を取り上げ、
公共政策の基礎論を作る高齢社会プロジェクトを運営している。
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